崩壊の音色(4/6)

ルーク達が第14坑道に向かった後、サクは宿屋にて直ぐに導師の法衣に着替えた。その間に第七坑道で発掘作業をしていた人や、村長を含め残っていた村人達全員にテントか療養所へ集合して貰った。

それにしても、アクゼリュスの街の人達が皆口が固くて助かったよ。パイロープさんもしかり。うっかりルークやジェイド達に"私達の事"を漏らしちゃうかと思って警戒してたんだけど……いや、流石に命が懸かってるのだから、当然と言えば当然なのかもしれない。



『ここに集まった方達で……此処は全員ですね?』



生きてる人は。もしくは、生き残れる人達は。

あらかじめ、フレイル達に指示を出しおいて貰った事もあり、流石に街の人達の対応は早かった。



「すみません導師様。パイロープの旦那が、キムラスカからの救助隊の方達を案内した後、息子を探しに行ってて……まだ戻って来てねぇんです」

『な……っ!?』

「それ以外は、他のテントにいる者達も合わせて、此れで全員揃ってます。ただ、障気が一番酷い14坑道の奥だけが、手付かずの状態でして…」

『……分かりました』



恐らく、障気が一番酷い14坑道に取り残された人々を助けるだけの時間が無かったのだろう。しかも、救助するにもリスクが高いし、後遺症の障気蝕害の事を考えると…ドチラにしろ長くはない。合理的な思考のクロノ辺りが手遅れと判断した可能性が高い。

とはいえ、第14坑道の方は想定内だから問題はない。けど、パイロープさん達は…っ!サクは悔しさから、思わず唇を噛み締めた。あの時、どうしてジョン君を引き留めておかなかったのだろう。後悔しても、遅いのだが。



「導師様!」

『!』

「お願いしますっ…夫を、見棄てないで下さいっ!!」



いきなり若い女性の方に泣き付かれた。理由を尋ねてみると、鉱夫である彼女の夫は第14坑道に入ったっきり、未だに戻って来ていないのだと話す。

……アクゼリュスの鉱石は武器や鎧の材料として、とても価値の高い物だ。自分たちの身を危険にさらしてでも採掘を続けていたのは、自分や家族の生活のため。そんな生活背景もあって、余計に避難が遅れたのだろう。

クロノ達から止められていただろうに…言う事を聞かなかった一人、という事か。全く、死んだら、その頑張りも全て無意味だというのに。



「ミレイさん、残念だが、アンタの旦那は…」

「もう、助からないのは分かってます。けど、最期くらい、看取ってあげたい…っ」



私の足許に泣きながら崩れ落ちる女性。傍にいた鉱夫の話によると、彼女がクロノ達と一緒に避難しなかったのは、夫から離れられなかったからだという。

今この場に残っているのは、主に障気蝕害の症状が酷くて、クロノ達と共に自力で避難出来なかった人達と、比較的症状が軽くて救護を続けていた人達だ。それ以外の街の人達は、クロノ達によって既に避難して貰っている筈だ。

当初の予定では、私はこの避難所や療養所に残された人達と救護に残っていた人達だけを助ける予定だった。

けど……



『(……生きてるんだ)』



鉱道の中に取り残された人達は、まだ、全員死んではいない。例え、もう手遅れだとしても……まだ助かる可能性のある命が、残っているかもしれない。

…いや、助かる助からないという問題の前に、取り残されている人達は、まだ……



『……分かりました』

「「「!」」」



残されたアクゼリュスの人々を今から全員を助けるなんて、到底出来る事じゃない。クロノには自分の力を過信し過ぎだと、嘲笑されるかな。しかも、一度はその人達を見捨てようとした自分が、今更その人達まで助けたいなんて……随分と虫の良すぎる話だ。

でも、もしも、助かる可能性が1%でもあるのならば……



『……出来る限り、善処します』













肌にまとわりつく生暖かい風に、サクはゆっくりと目を開けた。



『……ん、』

「!サクっ」



イオンのほっと安堵した顔が見えた。その後ろには、淀んだ紫色の空が広がっていた。



『……魔界(クリフォト)…』

「その様です」



未だに体にはあまり力が入らなかったが、イオンに支えられながら何とか起き上がる事は出来た。

どうやらアクゼリュスは魔界に崩落した様だ。ティアの譜歌が聞こえたから……恐らくそれで助かったのだろう。

イオンから視線を外すと、そう離れていない場所に他の皆も呆然と立っていて……その傍には、誰かが倒れていた。……否、違う。あれは"死体"だ。

辺りに転がる、死体。神託の盾兵以外は、坑道内に取り残されていた人達のようだっだ。その人だけじゃない。右にも左にも、死体はあって。

助けるって、約束したのに。結局、彼等までは間に合わなくて……助けられなかった。

私にもっと力があったら。こんなギリギリじゃなくて、もっと早くに動いていたら。

覚悟はしていた筈なのに、いざとなると、どうしようもなく悔しくて、泣きたくなった。それでも、私なんかに泣く資格は無いと、唇を噛み締めて堪えた。そんな時だった。



「う……うぅ…」



かすかな、子供の呻き声が聞こえてきたのは。



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