世界一危険なお茶会(1/7)

これは一体どういう状況だろう。任務帰りのリグレットは、目の前に広がる信じられない光景に、一瞬思考が停止した。

今から一時間後には六神将会議を控えている。その為、普段集まる事が滅多にない六神将達が全員教団に勢揃いする珍しい日な訳だが…



「ああっ、シンク!それはアリエッタのフルーツサンド…!!」

「ほれへもひっひょはろ(※訳どれでも一緒だろ)」

「サク〜っ!シンクが…シンクがアリエッタのフルーツサンドを取ったぁ〜〜!!」

『あー、こっちのバスケットにまだ残ってるから大丈夫だよ。シンクも他人のは取らないの』



…もう一度問いたい。これは一体どういう状況だと。

数々の死線を潜り抜けてきた六神将が、中庭で導師サクと共に呑気にピクニックをしているという、何処か異様な光景。平和ボケも良いところだ。……まぁ、アリエッタとシンクは導師サク付きの導師守護役でもある為、百歩譲って分かるとしょう。しかし……



『はい、アッシュはチキンサンドだね。良かったら人参も入れようか?』

「嫌がらせか?」

「アッシュ、敬語」

「ぐっ……」

「ハッハッハ、好き嫌いはいかんぞ、アッシュ」

「うるせぇ!」



何故アッシュとラルゴがいるんだ。アリエッタやシンクと違って、導師サクとは全く関係無い面子までもがお茶会に参加しているとは。

しかしそれにしても、アッシュとラルゴのやり取りは反抗期の息子と父親を彷彿とさせるものがある。アッシュにサクに対して敬語を使えと睨むシンクは差し詰め姑だろうか。



「フッ、皆さん実にナンセンスですね!サンドイッチといえば卵サンド!サラダサンドの様にトマトを挟むなど食への冒涜でs…」

『ちゃんとディストの好みもリサーチして用意してあるから大丈夫だよ。はい、トマト抜きの卵サンド』

「流石導師サク!この美しい私の友達として相応しい働きです!」

「ただトマトを抜いただけで普通の卵サンドじゃねーか!」



死神まで来た。

いちいちディストの戯言にキレるアッシュと比べ、何気に導師サクはディストのあしらい方が上手い。まさかヴァン以外で、癖者揃いの六神将をまとめ上げる強者がいるとは……この導師、やはり只者ではない。



「…リグレット?さっきからそんな所で何突っ立ってんの?」



離れた所にいたのだが……シンクに気配を気付かれたらしい。声を掛けられてしまったので、仕方なく彼等の前まで出て行った。



「いや、お前達こそ、こんな中庭で無防備にも導師サクを連れて何を…」

「皆でお茶会、です」

「…アリエッタ、それは見れば分かるが…」

「大丈夫だよ。六神将がこれだけ揃ってる現場を狙う命知らずな馬鹿はいないでしょ」



確かに。いやしかし、万が一という場合もある。と、シンクの言葉を否定しようとしたリグレットであったが…



『まぁまぁ、リグレットもどうぞ。まだ総会まで時間はあるから』

「え?いえ、しかし…」

『遠慮なさらずに』



煎れ立ての紅茶を導師に笑顔で差し出され、断れずに思わず受け取ってしまった。成る程、総会前の今なら六神将が集まっていると踏んでのお茶会という訳か。ほんのり香るアールグレイの匂いに、思わず警戒を解いてしまいそうになる。



『賑やかで楽しいですよね』

「そう、ですか…」



満足そうに笑っている導師サク。この状況を楽しめるとは……やはり、強者かもしれない。



「…閣下はご存知なのでしょうか?」

『ヴァンなら紅茶のおかわりを取りに行って下さいましたよ?』



何をしているんだ首席総長。一瞬、口にしていた紅茶を吹き出してしまいそうになったリグレットであった。



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