赤と朱のカルマ


「俺が死んで、皆が助かるなら……俺は障気と共に死ぬ!」



過去、世界の為に死ねと強要された彼。犯した大罪やレプリカである事の負い目から、自身の命の重さを軽視していた頃の……死の恐ろしさをまだきちんと理解していなかった頃に、言った言葉。

それから生きる意味を見い出した彼に待ち受けていた現実は……何処までも酷で。

彼に残された時間は、あまりにも短過ぎた。



「……必ず帰って来て!」

「ティア……」

「必ず…必ずよ!待ってるから。ずっと、ずっと……」

「……うん、分かった。約束する。必ず帰るよ」




その約束を未だに果たせずに、アシェルは今ここにいる。私が結末を変えた世界とは違い、本来の流れに沿って"ルーク"が居なくなった世界で、彼女は……彼女達は、二年という月日をどんな想いを抱えて過ごしたのだろうか。



『ゼロスの方こそ何も分かってないじゃない!あなたが死んだら……あの子は本当に一人になってしまうんだよ!?』

「っ……」

『それに、ゼロスにとって剣の腕を震わせる程辛い役目を、神子という重責を、因縁を!あの子に押し付ける気?自己満足も大概にしなさい!』



ゼロスが天使化により出した金色の羽根を見た時……画面越しにだったけど、ローレライの金色の光に包まれて解離していったルークと被って見えた。

最期まで、生きたいと……願っていた彼と。



『あの子は…神子になる事なんて望んでない。ただ、貴方に…たった一人の肉親であるゼロスに!傍にいて欲しいだけなんだよ!!』



生まれてきた事は間違いだったと、絶望した赤と

生まれてきた意味を探し続け、最期まで生きたいと切望した朱。

幼き日に日だまりを奪われ、孤独に生き急いだ紅も含め、どの世界の赤毛も、本当に厄介だ。



「けどアイツは……セレスは、俺を恨んで…」

『馬鹿神子。女たらしの癖に妹の気持ちも分かってないんだから。……あの子が素直に貴方を兄と呼べないのは、過去に貴方を拒絶して傷付けてしまった事を後悔してるから!自分が貴方に嫌われてると思っているから!互いが互いに大事だと思ってる癖にっ!!』



崩れ落ちたゼロスの前に、大方治療を終えた私は彼の目の前で膝をついた。



『私は、ゼロスに逢えて良かったよ?』

「―――…っ!?」



怪我をしていない方の腕で彼の頭に手を乗せて、優しく撫でてやる。何時だったか、ルークやアッシュにしてやった時と同じ様に……



『私だけじゃない。ロイドやコレット、ジーニアスやリフィル、シイナもプレセアもリーガルもアシェルも………セレスも。皆そう思ってる。そんな風に悪ぶらなくても……私達は、ゼロスが本当は優しい事を知ってるよ』



うつ向いたまま肩を震わせているゼロスを引き寄せ、私より大きな背中を包み込む様にソッと抱き締める。



『それに、ゼロスは強い方の味方なんでしょ?なら私達の味方って事だしね』



ほら、貴方は最初から……ロイド達を裏切ってなんかいないじゃない?そう言ってサクは何も言えずにいるゼロスへ優しく微笑み掛けた。

ずっと堪えていた涙が、彼の頬を伝って地面に小さな染みを作った。


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