スケープゴート

マルクトからの賓客をもてなし、粗相する事無く無事に(むしろサクが接待する以上に完璧に)公務をこなしたスイレンは、現時点で既に疲労困憊していた。大詠師モースの方は、スイレンの完璧な接待にかなり御満悦な様子で、現在後ろで鼻歌を歌っていたりする。早く何処かへ行ってくれないかとスイレンがため息をつきたくなった所で、タイミングが良いのか悪いのか、廊下でバッタリとシンクに出会してしまった。

大詠師モースや賓客と違い、シンクは教団内でも特に自分達とは親しい。そんな彼を騙せるか…。

シンクの方も此方の存在に気付いてスイレンの顔を見るなり、シンクは不自然に動きを止めた。



「え…、何してんの?」

「おかえりシンク。今任務帰り?」

「そうだけど…アンタの方は何をしている訳?」

「マルクトからのお客様と話をしてた所だよ」

「アンタが?その格好で?」



導師サクを装ってみたが…何だか既にバレてる気がしてきた。やはり、彼に対して隠すのには無理があった。が、だからといって、ここで導師サクの名前を出すと不味い。スイレンの努力が水の泡となってしまう。後ろに大詠師がいる為、視線をそちらに向けてシンクにアイコンタクトを送る。



「……まさかと思うけど、逃げられたの?」



サクに、とは言わずに返してきたシンクの言葉に、スイレンは苦笑で応える。瞬時に事情を把握して貰えた様だ。部屋まで送るよ、と言ってすぐ側に来たシンクの六神将から守護役への切り替えの早さは流石だ。そうして二人は、周りには聞こえない様に、更に声を顰めて話し始める。



「レンがサクに出し抜かれるなんて。珍しい事もあるもんだね」



明日はダアトに雪でも降るんじゃない?とシンクは嗤う。が、シンクの目は決して笑ってはいない。むしろ据わっている。ああ、これは怒ってるなぁ…と、スイレンは察する。



「大詠師を撒き次第、目標を捕獲しに行くよ」

「了解」



いつもならここでシンクを宥めに掛かる所だが、今回ばかりはスイレンもサクを庇う気は無かった。それだけ彼女を怒らせてしまっていたのだ。



「でも、よく気付いたね。モース様や他の神託の盾兵達には全然気付かれなかったよ?」

「は?むしろ気付かない方が不思議だよ。サクは癖毛で跳ねてるしアホ毛まであるしレンより前髪が0.3cm短いし歩き方がお淑やかじゃないし身長もレンよりちょっと低いし何よりアホ顔だし警戒心が低いし油断してる時は気配にも疎いし困ると首を傾げる癖があるしそれから…」

「有り難う。もう良いよシンク…」



真顔なシンクに対して、これには若干笑顔が引き攣り気味なスイレンであった。


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