廻るカルマ 旧7頁目

アッシュのお見送りに行くからシンクも一緒に来て、とサクに言われて、早朝から渋々付き合って来てみれば。まさか、またコイツと出逢う事になるとは思ってもみなかった。



「僕に会わせたい奴がいるって……もしかして、コイツ?」

「ムッ、コイツじゃなくて、フローリアンだよ!僕はシンクとイオンのお兄ちゃんなんだからね!!」

「は?兄ってどういう……あぁ、そういう事」


今目の前にいるコイツ…フローリアンは、二年前のあの日に最初に作られた、導師イオン被験者のレプリカだ。その中で、出来損ないとして、僕と一緒に棄てられたもう一人のレプリカでもある。そんな、あまり思い出したくない当時の記憶が脳裏を過ぎり、シンクは思わず顔を顰める。

自分があの日一番目に作られたから、レプリカ達の中で自分が一番上の兄である……とでもコイツは言いたいのだろう。そんな巫山戯た戯言をコイツに吹き込んだと思われる元凶(推定、サク)を睨めば、あからさまにビクッと肩を揺らして、慌てて手を引っ込められた。…今度は一体何の悪戯をする気だったんだか。


「ちなみにクロノが一番上のお兄ちゃんだよ!それで、クロノの大切な人がアリエッタで、僕の恩人なんだ!」



まるで自慢の兄を紹介するかの様に、一生懸命僕に話し掛けてくるコイツ。事実、コイツにとっては被験者(クロノ)は自慢の兄であり、アリエッタも大切な恩人の一人なのだろう。…正直、僕には理解し難いけど。



「アンタは…「フローリアン!」……フローリアンは、僕を恨んで無いの?」



一緒に火山の麓に棄てられたのに、自分だけ助かった僕を。咽喉元まで出かけたその言葉を呑み込み、シンクは唇を強く引き結ぶ。

あの時、僕とコイツは火山の麓へ一緒に破棄された。僕は自力で這い上がったけど、気付いた時にはコイツの姿は見当たらなかったから、てっきり熔岩の中に落ちて死んだかと思ってた。別に、助けようと思った訳じゃない。仲間意識、なんてものも無かった。生まれたばかりの僕に、そんな思考は存在しなかったから。ただ、情緒がある程度人並みに機能し始めた頃に漸く気付いた。あの時自分は、同じ境遇にあったもう一人のレプリカを見捨てたんだ…と。

そんな僕の葛藤など気付きもしないのか。当のフローリアンはというと、不思議そうな顔でキョトンとしていた。



「何で僕がシンクを恨むの?」

「何で、って…」

「僕はそんな事しないよ。別に怒ってもいないし。それに、僕はシンクのお兄ちゃんなんだから!」

「………」



コイツは僕とは違う。フローリアンの目を見て、シンクは直感的に思った。コイツは、僕と同じ境遇の中で生まれながらも、その心は真っ直ぐで、真っ白なままなんだ。だからこそこれ程真っ直ぐに、無邪気に笑っていられるのだろう。

フローリアン……その名の通り、無垢な者。

フローリアンが僕に好意的なのに対して、僕の方はというと、彼に対して負の感情を抱いてしまっている。彼とは対照的なこの性格のせいで、つい卑屈になってしまう。こいつに皮肉や嫌味を返しても、余計に惨めになるだけだろう。



「それにね、シンクがサクに助けられた時、僕はアリエッタに助けて貰ってたんだ。これもサクのお陰なんだよ!」

「…え?」

「だからサクも僕の恩人だし、僕の名付け親でもあるんだ!」

「………、」



シンクと同じだね!そう言って無邪気に笑うコイツに、悪気は無いのだろう。彼の純真さが少しだけ羨ましくもあり、同時に恨めしくて。シンクは密かに拳をギュッと握り締めた。


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