02
わかっていた、ことだった。
確かに、昔はずっと・・・・帰りたいと、思っていた。
猫さんはお家に帰らないの?お市さんに言われた言葉が忘れられない。
多分、隣に居た三成さんだって、薄々は気づいていただろう。
私だって、そうだ。
改めて突きつけられた現実。
でも、私は彼を闇から救うためだけにこの世界に呼ばれたのだから。
『・・・どうしたら・・・いいんだろう…」
確かに、そう、この世界に私が居る必要は、実のところもうない。
でも、私が彼の傍に居たいと思うのは駄目なことなのだろうか。
戻りたくない、というのは・・・
「弥月。」
『?!』
考えにふけっていたら、後ろからかけられた声に肩が跳ね上がる、
慌てて返事をしたが、裏返ってしまった。
そんな私の反応を無視して、障子の開く音と、足音。
やっぱり戦がなくなっただけあって、必要なくなった機能は衰えて行く運命だ。
「・・・気にしているのか?」
けれど、言われた言葉に、ゆっくりと振り返る。
三成さんは私を見下ろし、私と目が合うと膝をついて体勢を崩して座った。
そんな彼に苦笑いだ。
『少し、は。
私の家族は向こうに居ますから』
「・・・」
『でも、帰りたいとは思わないんですよ、だってまだこの日ノ本はちゃんと土台が固まっていませんから、整うまでは貴方のそばに居ても?』
質問に、そう返す。
視線を窓の外に映せば空には月。
そして星。
あぁ、そういえば。
『三成さん。
星は何時輝いてるか、知っていますか?』
「何?」
『私たちが見てるこの星は何時輝いているか。』
クスクスと、笑う。
この時代には、まだ天文学はないはずだ。
それに私もそんなに詳しいわけじゃないけれど。
「知らん。」
『でしょうね。』
「・・・」
『今、私たちが見てる星の光は、ずっとずっと、それも100年も200年も昔に輝いたものなんです。
星の距離の単位は1光年って言って、1光年離れていれば1年・・・
400光年離れていればその光が観えるのは400年後。
今、輝いた星は、未来の・・それも400年後の私が見ているんですよ。』
案の定知らなかったようで、ムスッとされてしまったけれど私はそれでも言葉を紡いだ。
ちゃんと伝わったか分からないが、でも、なんとなく言いたかった。
『だから、今はまだいい。』
平和の日ノ本
秀吉様、半兵衛様の望んだ強さを求める日ノ本では無いけれど亡国ではなく・・・
家康の望んだような、平たい太平の世にはまだまだ届かないけれど、
もう、理不尽な戦いで喪うものが少しでも少ない世界。
『まだ、各地で苦しんでいる人がいるんです。
だから、その人たちが皆笑顔になったら、・・・帰りたいなぁなんて。』
「そうか…」
執筆日 20130501
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