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『はじめまして、かな。』
一定距離に近づけばなぜか逃げられる。
その距離、というのが尺ではなく、メートルであらわせば2メートルなのだが。
おびえすぎだと思うのだよ。私は。
だから苦笑いをして、小さな子に話しかけるようにしゃがみこむ。
目線を合わせれば、いまだ涙を流すその弱弱しい目と目が会った。
『私は、石田軍の猫、って言えば分かるかな。
皆、猫猫いうから。
戦場でしか有名じゃないからアレだけど、一応軍医として豊臣軍に使えてた。』
「軍医?」
『うん、軍医。』
聞き返されたその言葉に、にこやかに答える。
確かに、聞き返される意味は分かる。
軍医。というならば、本来は戦場には立たないだろう。
「でも・・・銃とか・・刀とか・・・使ってるでしょ・・・」
『生きる為にね。
私は救う一方で、たくさんの人を殺してきた。 』
本心をつくような質問に、微笑む。
使ってるよ。
だから、私の手は酷く血に汚れてる。
『私に軍師をやらせようとした人がいてね。
その人が言ってたんだ。
自分の未来を護る為に、他人の未来を奪うんだって。
だから私はそれを遂行してきたし、これからもそうする気でいる。
一人でも多くの仲間の未来を護る為に。
今、君は私の中の仲間っていう位置なんだけど、だから攻撃はしない。
未来を奪ったりもしない。
だから三成さんに叩かれた場所とか、治療させてくれないかな?』
*-*最初最後*-*
死神は、己の主が猫と戯れるのを見て、何かをたくらみ。
満月はただ、裏切りを許さず、蝶々の思想にも気がつきません。
残酷な戦の始まる、最初。
そして、かの猫がまだ、小さかった最後
執筆日 20130401
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