09
「返してやってもいいぜ。」
ニッと彼が言うもんだから、あっけに取られた。
だってそうだ。
私は、軍人だと、言った。
それなのにもかかわらず、彼は私に武器を返すといったのだ。
いや、おかしいだろう。
私なら返さない、絶対に。
『なんで?』
「あ? 返して欲しいんだろう?」
『まぁ、そうだけどさ。』
「なら交換条件だ。」
けれど、返してくれるならそれで良い。
ただ、交換条件・・・というのが疑問だ。
ニヤニヤと笑う彼に、半分嫌な予感しかしてこないのだが・・・
「俺のこと、長曾我部、なんて他人行儀で呼ぶなよ。
元親でいいぜ。呼んだら返してやる。」
だが、案外簡単な用件だった。
さらにばかっぽい顔になったのはしかたないだろう。
噴出すように笑った。
豪快に・・・。
『し、失礼だな! 元親!ほら、呼んだ!』
「お、それでいい、ほらよ。」
だから、むっとしてそういえば、笑って、私に剣を渡した。
手元に戻ってきたそれに、ホッとする。
けれど、手首に繋いでいたそれは、もう、なかった。
「あぁ、あれな、海水吸って紐が解けなかったから切っちまった」
『そう、ですか。』
「代わりっていったらなんだが、ホラよ。」
そうしたら、ヒョイッと出された赤紅の紐。
ぎょっとして慌てて手を差し出せば、それは私の手に落ちた。
結構上質なものだ・・・
髪結いにでも・・使えるもの。
『こんな綺麗なの・・・』
「いいんだよ、もうつかわねぇし、」
丈夫な方がいいだろ。
なんていうもんだから断われる気がしない。
ありがたく頂戴しよう
すとんっとその場に座って剣の柄にクルクルっと紐を巻いて行く。
解けないように、しっかりと・・・
前の紐は大分古くなっていたけど、そのままにした。
それは、思い出だから・・・。
『元親、ありがと、』
「いいってことよ、 野郎どもの礼だ。」
*-*紫鬼之涙*-*
《磨いでくれたんだ・・・》
(ん?あぁ、錆びるからな)
《ありがとう、助かったよ・・・》
猫は、空を見上げた
執筆日 20130316
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