びゅうっと生ぬるい風が吹く。
それにじっと対岸を見つめた。


『・・・テメェが畠山(はたけやま)か・・・』



向かいに私の率いる伊達とは異なる旗がなびいている。先頭にいるのは輝宗様よりも少し年上ぐらいの男だ。案外簡単に敵が分かったからな、名を言ってやればニヤニヤして私を見る、気持ちが悪い。


「初めまして、伊達政宗姫様?」


そして、にやにやしてそんな口調で、私へと言う。ゆるりと目を細めた


『はっ、初めましてなんてしてる状況か?さっさと父上を返せ
「これは簡単な取引だ。」


さっさと刺し殺してしまいたかった。まだ、ただの一度も人を殺したことの無い私が・・・だ。だが、早く・・早くその面を殴り潰したい。男が何かを合図すれば人が割れ、囲まれるように縛り上げられていたのは


『っ父上・・・っ』


猿轡をかまされ、首に刀を突きつけられている肉親。思わず、小さく声を上げてしまった。私の、その、たった一言の言葉に、輝宗様も目を見開いていたが。そんな私たちの様子を見て、畠山はまた口元に笑みを浮かべる


「さぁ、伊達の姫君、選択権をくれてやろう。私たちに降伏するか・・・それとも・・・ 」
『・・・』


ザワッと後ろで軍のみなが騒ぎ出す。
簡単に言えば、こちらには何も無い・・・ただの無条件降伏だ。

私が・・・決めていいことじゃない・・・わかんない・・・
こんな、ただの私が・・・


「なんて卑劣な連中だ。・・・・・どうしますか、政宗様。」


けれど、小十郎の言葉にハッとする。いつもの小十郎ならばもっと・・・冷静で・・・声に動揺なんて含まない。でも、今の小十郎は・・・?

父上はいないけれど、私は軍をひきいてきた。

先頭に誰がいる?伊達、政宗。私じゃないか・・・


「ッッッ政宗!!!」


そこまで考え付いていても、私は答えられなかった遮ったのは、人質として、掴まっている父上。表情が固まった

無理やり、父上は猿轡を解いたんだ。


「私を殺せ!!」



けれど、吐き出された言葉に、私は絶望した。あの人は死を選んだ。私に・・・私に・・・殺せと・・・

周りが動揺に包まれる。誰が殺せようか・・・あの偉大で、暖かく大きく、強い頭首を・・・。泣きそうだ・・・でも、今泣いたらいけない・・・


「このっ!!」
「お前ならば人の上にたつものが何を選ばねばならぬのかわかるはずだ!我が愛しの娘よ!!」


ドクン・・・
小さく心臓がひしめいた。


今泣いたら、いけない・・・ っ


ドクドク・・・

表情には出さないが、手には汗がにじんだ。
けれど・・・父上は・・・あの人は・・・

ぎゅっと、手を握り閉めて、一度、息を吸って、顔を上げた。



『・・・弓を。』
「・・・政宗様、自分が」
『いい、「私」がやる。』


近くにいた弓矢隊からなかば奪うように弓を受け取る。
ただ、矢は一本。
外せば、きっと襲い来るだろう・・。

一回だけのチャンス。けれど・・・やらなくてはいけない


的を絞り、きゅっと弓を構えた。



「じ、実の父親を手にかけるか、とんだ娘だ!!」
『好きにいえ、』


手が震える。でも、悟られたくなくて、あえてそう言った。声は震えてない。それには、ホッとした。


『(輝宗様・・・っ父上・・・っ)』


カタカタと、震えているのが分かるのは、きっと小十郎だけだろう。
ゆるゆると瞳が霞んでくる。


だめだ・・まだ・・っ


「______射て!!」


バシュ


父上の言葉に、滑るように手から矢が放たれた。まっすぐに飛んで行く矢。どすっと鈍い音と、綺麗に矢は父上の心の臓のあたりを貫き、そのままうめくこともせず・・・父上はそのまま崩れ落ちた。

後ろで、父上を見ている皆が、固まっている。
でもそれは、畠山側もそうだ。

けれど、これはほんの一瞬。



『っ行くぞ!あの卑劣漢のやろうどもに、己が何をやったのか輪廻転生した後でもわすれねぇようにしてやれ!!』


弓を捨て、そして引き抜いた刀。父上という人質を失った敵は簡単に、堕ちた。



私が使っている刀は・・・確かに人を殺せるもの。一人として、生かすことはなかった。
これは末代までの失態になるだろう。それがいい。


『・・・』


静かに、歩き出した。



執筆日 20130507



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