私はどうやら転生というものをしたらしい。
まぁ、別に記憶があるかどうかはこれからの生活をする上であまり関係ないだろう。

「梵天丸?  梵天丸〜」


最近はそう考えるようになって日々を過ごすようになった。
そんなとき、私を呼ぶ声。この声は母上のものだ。そして、呼ばれているのは幼名と言われるもの。

ちなみに、この世界に生を受けて早5年だが、記憶がある上で落ち着いたこの性格は周りからおかしく見えたようだ。しかし、「神が授けた子」やら「神童」やら言われ普通に生活できている。

ただ、この世界はどうやら私が生きていた時代ではない。大方江戸時代かそこらだとは思うけれど・・・

この歳で勉学をする子は異様なのだろうか?まぁ、普通なら外で走り回るけれど、無理。いまさら子供らしくとか…それに、同い年ぐらいの子とはあんまり会わないし。

喜多(乳母さん)は物心つく頃居は居なかった。


で、ちなみに今は母上とかくれんぼ中だ。なぜかといえば、まだ5つの私に許婚をつけようとしているのだ。5つだぞ5つ。

さすがに早すぎるだろう。


『(さて、どうしようか…)』


これが初めてならまだ隠れる場所もあった。けれど何度か繰り返しているうちに隠れられる場所も少なくなってきたのは、仕方がない。
それにこの身体では体力にも限界はある。何より屋敷の中は隠れられるところが限られてしまっているのだ。




茂みの中で身体を小さくして隠れているが、いっそ脱走でもしてしまおうか。と考えるが小さな私に行く宛なんかない。

なぜか、姫と言われていてそれらしい扱いをされているのだ、いや、確かにいい暮らしはしていると思うが・・・


『(私は自由に生きたい)』


6歳になったら一回家出しよう、うん、そうしよう。


「ん?」


そう決心を固めていたら不思議そうな声。
逆にこっちもキョトンッとして顔をあげればそこに居たのは10歳くらい…年上の人だろうか。

オールバックで、髪は長く後ろの高い位置で結っていて少し怖い印象を受ける。が、外見はこれでも内面は大人なので、無理に大人のなかに混じろうとする幼い感じもするのだが。


『…お前、誰だ…。』


こう、おおっぴらに出歩いているということは敵じゃ無いと思うが、だったら、誰だ・・・。

身構えようとした。・・・のだが


「梵天丸−。どこにおるのじゃ?」

『っ』
「うぉ!」


母上の私を呼ぶ声。

まだ少し遠いが、不自然にこの男が立っていればばれるだろう。
それは勘弁。いまだに黒星は上げてないが、見つかれば盛大に着せ替え人形だ。それだけは耐えられない。

引くには力のなさ過ぎる体。ドンっと体当たりの勢いで押し倒す。

いきなりのことにバランスを崩し、どさっと後ろに倒れた男の口元に『しーっ』っと指を当てて黙らせた。口をふさがないのは暴れられないための。

茂みから見えないように身をかがめる。まぁ、要するに顔は近くなる。

じーっと見れば、どうしたらいいのか、という目で私を見ている彼はやっぱり年相応だ。


『・・・私は梵天丸。此処の家の子。』
「は?」
『お前は?』


なるべく小声でそういえば、驚いたように私を見た。
そりゃね。こんな餓鬼がこんな落ち着いていたら誰だって驚くだろう。


「梵天丸・・・様・・・?」
『様とか、いらない。で、アンタは』
「こ、小十郎でございます。」


そして私の名をなぜか敬称つきで復唱した。
堅苦しいやつ。
でも・・・小十郎か・・・と名前を心の中で確認してから考える。
今私がするべきなのは母上から逃げることで彼と話すことではない。


『小十郎ね…そうだ、ねぇ、隠れ鬼しようよ。私は別の場所に隠れるから、小十郎はここに居ていいよ!』


囮に使わせてもらおう、そう思った私の行動は早かった。
子供らしい笑顔でそう言って、走り出す。


さっき騒いだからすぐに人が来ちゃうかな。なんて思いながら
うん、ごめんね、小十郎さん。







竜はまだ小さくこの先の未来など、知るよしもなかった




執筆日 20130210



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