『天珠。』


ふわりと名を呼べば、パサパサと羽を羽ばたかせて私の元に来るのは一羽の燕。もう、この子が私のそばにいるのは、何年目になるのだろうか・・・。

元服をし、早一年。
あれ以来、たまに輝宗様から文が届く。

もちろん、それはちゃんと返している。彼は私を娘とも息子とも取っていない。
ただの一兵、家臣だ。…それを置いても最近不安なのは、この子なのだ。

私が右目を失ってから、ずっとそばにいて・・・早6年目になる。やはり、老いからか、最近は籠の中から出てこない。まだ、生きていてもらいたいけど・・・でも・・・老いならしかたないのだ。


『天珠、天珠・・・っThanks・・・っ天珠・・・っ』


貴方は、私に右目をくれた子。それまで、私の目として、そばにいてくれた子。
ずっとずっと、貴方は最期までそばにいて欲しい。

出会いがあれば、別れがあるのは当然だ。なのに、私はまだ別れが怖い。

この先に何があるかなんて、わからないのに。


天珠が死んだのはそれから少しして。寒い寒い日のこと。

仕方が無い。元々燕は渡り鳥。暖かい地域に移動せずに私の元にいれば寒さで死ぬことは分かってた。冷たくなって、命の鼓動感じられない天珠を軽く撫でる。

天珠には、何度も何度も助けられてばかりだった。襲われた時だって、私を助けてくれた。

始めは、ただ単に私がこの子に頼るだけだったのに、呼べばすぐに来るようになって、いつの間にかとてもいい相棒だった。


『おやすみ、天珠。』


もう、貴方はゆっくり休んでね。そう思いを込めて一度軽く撫でてから、天珠が雛の時に使っていた箱の中に懐紙を詰めて、寝かせ、蓋を閉じた。所詮、簡易的な棺おけだ。
しかもとても安易なものだけれど、


「政宗様・・・」
『小十郎、少し付き合え。』
「御意に、」


慎重に箱を持って向かうのは、たった一つ。
馬にまたがって、小十郎がついてくるのを見計らって軽く足を早めさせた。







「ここは…」
『俺が私で入れる場所だ。』
「政宗様…」
『Non、ここじゃ梵』


呼ばれた名前にくすくすと小さくわらう。風が吹けば髪をさらった。

所詮はただの人気の無い丘だが、あれからたまに治安を見て回るようになり、見つけた場所だ。ここは見晴らしがよく私のお気に入りの場所だ。

だから、此処に来たわけだが、馬を下りて近くの木に手綱を結んだ。それからすでに掘っておいた穴へと、その小さな箱を降ろす。

手がドロだらけになろうと構わない。だって、これは嫌なことじゃないから。


「政宗様、お手伝いします」
『Thanks、こじゅ、花つんでくるから天珠を頼む。』


簡易な墓だ。けれど、あの子が生きた証を残したかった。

歩けば、我慢し切れなかった涙が溢れ出した。あぁ、ありがとう、ありがとう


『ありがとう、天珠・・・っ』


もう会えない、私の友達


執筆日 20130421



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