その場が重苦しくなる、なにか、当てられるような、そんなもの。
バリリッっと静電気のような音が聞こえて、うめく男の声。目の前で私を掴んでいる男が後ろを振り返り、けれどにやりっと笑った。


「なんだ、おにーさん。まざりてねぇなら名乗るのが筋だろ?」
『っぁ・・・やめ、やだ!!』


私からは見えない、その男にあざ笑うように笑う。混ざる、なんて言葉、聞きたくなかった。

ガタガタと、体中の体温が下がるように体が震えるが、威圧感が増した気がする。


けれど、バサっと羽ばたく音とともに、「うわっ」っと男の声、そして私の体の拘束が緩んで、足を振り上げて、蹴り飛ばした。


一瞬の隙。

水溜りのせいでバシャッと、また泥水の中に飛び込んでしまったが飛ばされた愛刀をとり、固まった。


バシャリっと、私にかかる赤。さっきまで私を拘束していた男は赤にまみれて、そして、倒れた。


顔にかかった赤は、雨によって落ちて行く。けれど、薄い色になったとしても、服にかかった赤ははっきりとその色を象徴していた。


『ぅ・・・ぐ・・・っ』


むせ返る、血の匂い。死の匂い。ゴホゴホと咳き込んでしまう。
気持ち悪い、何これ、何これ…っ


パチッ


『っ・・・』


ガタガタと震える体と、刀から小さく発せられる電気。そして、目の前の男が纏っている雷。



「梵天丸さま…それは…っ」
『い、やだ・・・っくんな・・くんな・・・っ!!』


意味が分からない。なんでこんな、へんな・・・人間が雷なんておこせるわけない。
なのに・・・なんで・・・


「梵天丸さま、お気を確かに・・・っ」


片倉が私の名を呼ぶ。
けれど、さっき、この男は・・・人を、ころした・・・


『あぁああああぁぁあああああ!!!!』



絶叫と、踏み出してしまった足、下から上に振り上げた刃


別の赤が散って、けれど、なんでか体が温かさに包まれて、ポタリ、ポタリっと、頬に滑って行く赤い液体。それにだんだんと浅くなって行く呼吸。



このあかはだれのいろ・・・?



するりっと、手から滑り落ちる愛刀には、赤いその液体がついていた。顔を上げれば、傷を負い私を抱きしめていたのは、片倉小十郎で・・・

その傷は、私が、私・・・が・・・?


『あ・・・っ』
「梵天丸様、」
『ご、め・・・っ』



ポロっと涙が流れる。助けてくれたのに、無傷だったのに、なのに、私のせいで・・・こんな、弱い私、必要ないのに・・・っ


『勝手な、ことして・・・っごめんな、さい・・・っ!』


片倉小十郎

この男の言っていたことを、ちゃんと聞いていれば、こんなことになんてならなかった。
あぁ、本当に、私なんて、必要ない・・・。雨で冷たくなった体。

一度離されて、そしてふわりっと片倉小十郎の着ていた羽織が私にかけられ、それから私が落とした愛刀を拾うと布に包み懐に入れて、私の事を抱きかかえた。ビクっと身体を震わせてしまったが、安心させるかのように、一度身体を強く抱きしめられる。


「梵天丸様、怖い思いをさせてしまって、申し訳ありません。帰りましょうか?」


ぽんぽんっと慰めるように背を撫でられる。

どうして、こんなにも暖かいんだろう、どうして、こんなにも・・・優しいんだろう・・・

私は、あんなに冷たく・・・あたったのに・・・
ぎゅぅっと、しがみつく、泣き顔を見られたくない。

ごめんなさい、その意を伝える為にただ、しがみついてた。





*-*Side kojyuro*-*



腕の中で震える体を抱きしめる。
まだ小さな体、俺の小さな主。

雨だから、部屋に居るだろうと向かえば部屋はもぬけの殻。
この雨の中、あの樹に居るのかと、探しに行けばそこにも梵天丸さまの姿はなく、一瞬にして血の気が引いた。


「梵天丸さま!!!」


雨の中、あの方は出て行かれたというのか・・・何故・・・ッ

隠していた、あの方の刀が無い。最悪の事態が、本当に発生してしまったのだと濡れたのも気にせず、一度己の部屋まで走る。ニ振りの刀を取り、屋敷を出た。

この地は他の地に比べればまだまだ治安は低い。つまり、多くの事件が多発するということだ。

当たらないでくれ、とそう祈るしかなかった。


「梵天丸様!! どこですか!!」


声を張り上げる。もしものことを考えると刀に添えている手が震える。


バサッ!!!


「なっ!」


だが、そんな俺の前を通るのは、一羽の鳥。バサバサと俺を攻撃するように周りを飛ぶ。
こいつ・・・ッ


「! お前、天珠か」


目の前を飛ぶ、その鳥にかけられているのは蒼の紐。梵天丸様の髪紐であったそれをつけている鳥をこいつしか知らない。
声を上げれば、そのまま身をひるがえして今来た場所に戻ろうとする。

鴉は利口だと聞いたことはある。燕は分からないが、育ったその場所に帰るという習性があるというのは知っている。

あの方がそれを知っているかは分からないが、しかし、こいつは賢いだろう。
俺の顔を覚えていたかは知らないが俺の声に、身をひるがえし飛び始めた

その後を追う。

梵天丸様の足跡は雨にまぎれてもうわからない。雨音でさえ今は俺をイラつかせる。

だが、悲鳴が聞こえた。

嫌な予感が当たってしまったと、冷や汗が流れる、男の集団を見つけ、そして赤を散らせた。

そして、俺が見たのはいつも着ている蒼の羽織が無残にもボロボロにされ、そして見たこともねぇ野党に肩をつかまれ肩を震わせている、梵天丸様。

パリ・・・

手にした刀に宿る力。



「なんだ、おにーさん。まざりてねぇなら名乗るのが筋だろ?」
『っぁ・・・やめ、やだ!!』


あざ笑う、その男の声に、ハラリっと髪が乱れて、おちる。
どうやらこいつは本気で俺を怒らせたいらしい。

バサッ



それに、俺だけの気が立っているわけではない。俺の顔の横を飛び去り、そして男に襲いかかるのは主を護ろうとする小さな従者。

まさか、襲われるとは思わなかったのだろう、

梵天丸様の手を離し、その隙を梵天丸様が見逃すはずがない。男を蹴り上げて、水溜りに飛び込んでしまったがしっかりと梵天丸様はお逃げになった。

刀を振り上げて俺に背を向けている男を斬りたおす。


振り返ってしまった梵天丸様の顔に血が飛び散ってしまったが、雨により、落ちていく。

それだけが救いだが、まだ小さな梵天丸様にこの光景は残酷すぎた。ゴホゴホと咳き込んでしまった梵天丸様に手を差し伸べたかったが、彼女の手に握られている小さな短刀に、パチッと小さな光が走る


『っ・・・』
「梵天丸様・・・それは・・・っ」
『い、やだ・・・っくんな・・くんな・・・っ!!』


俺を見て、己の手を見て、左の目が俺を映し、涙を流す。


『あぁああああぁぁあああああ!!!!』



絶叫、そして、俺に向かってくる梵天丸様。きっと今の状況に混乱しているんだろう。死を、一番身近に感じたのは彼女だ。

刀が、下から、上へ振り上げられる。ソレは、俺の右頬を傷つけたが、そのまま俺は小さな梵天丸様の身体をだきしめた。

もう、彼女を独りにしないように。



執筆日 20130402



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