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いちひきめ


 これはまだ、平凡が続いてたときの話。

まぁ平凡っていっても、私たちは関東で負けちゃったんだけどね…

関東大会が終わって…私たちの全国大会はなくなっちゃったけど、でも楽しかった。


まだね……ねぇ1匹目の羊さん




***   ***   ***



関東。東京の中でも特に名が上がる「氷帝学園」。
今年度の男子テニス部はここ毎年常連となっていた全国大会への切符を逃してしまえば、高校進学を控える三年は二年生へ各自引き継ぎをし、そして、残り少ない学園生活を平和的に過ごしていた。

その学園の中庭に一本の大きな樹があり、その樹の枝に眠る一人の少女。

金色の髪。フワフワとそれは風に揺れて遊んでいる。

地上から約2mと多少不安定な場所だが、心地よさにそこを昼寝場所をしているゆめとしては、落ちなければ最高の場所なのだ。

そも、一度も落ちたことはないのだが。


「ゆめ、起きとるんはわかっとるよ」


そんな彼女の元へ下からかけられる声。
ゆめ、と呼ばれた少女はパチっと今まで閉じていた瞳を開いてそしてむくりっと起き上がりぐぅっと両腕を上に伸ばした。


『見つかっちゃったC。ゆーしはかくれんぼの鬼だね』


そのままにこりと、砂糖を溶かしたような甘い笑顔を浮かべて、通常であれば見下ろされているその男を見下ろしていた。

 彼女の名は芥川ゆめ。この氷帝学園3年生であれば女子生徒であるが特例の男子テニス部のレギュラーとして、200人以上いるうちの7人にいる。
そして上から侑士と呼んだ男子生徒を優しく目を細めて見つめていた。
開かれた瞳は澄んだ金色。くもりを知らない、純粋な琥珀色をしている。

 そんな彼女を下から見上げてるのは忍足侑士だ。
彼女と同じく男子テニス部3年のレギュラーであり、彼女の保護者的存在である。


「跡部が怒るで?」
『多分もー、怒ってるでしょ?お説教は嫌いだC−』


我らが偉大な生徒会長であり部長の彼の名を出せばにへらっとそのまま笑って『だからここにいるのは内緒ね?』と彼を共犯者に仕立てようとする。

いっそ確信犯だ。その彼女の行動に忍足ははぁっとため息をついた。


「たとえ全国がなくてもまだこの先ミクスドとか有るんやで?練習はでなあかんやろ、お姫様」
『えー、ゆーしのケチー』


その忍足の言葉にむすーっとしたまま、彼女は言う。お姫様、というのは、よく眠る彼女に彼女の幼馴染がつけたあだ名からだった。それがいつの間にか男の中に紅一点の彼女に対して、一つの「呼称」となったのはここ最近の話。


「今日帰りムースぽ『分かった、いく。』…安いな、自分」


けれど少し目をそらしそう言った彼の言葉にすぐにゆめは樹から飛び降りる準備を始める。彼の口から出た自分の好物はもらえるならもらいたい代物だった。

そのまま飛び降りようとした瞬間「危ないやろ!」という忍足の声が響く。それにムッとするゆめ。


「ほら、こい」
『・・・へんた〜い』
「うっさいわ、ボケ。はよせい。」
『…りょーかい!』


それから両手を広げた忍足にそう毒を吐きつつ、彼女はぴょんっと樹から飛び降りた。





ずっとね、続くと思ってた。こんな当たり前の日常。

でも、皆にとって俺って…
私って…そんなものだったんだね


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