▼ とある宵闇
血に濡れた装束を脱ぎ捨てて彼女はそこにいた。
丑三つ時のとある一室。
顔を隠していた布さえも取り去れば朱の忍び化粧があろうとも美しい横顔が月明かりに照らされる。
『…』
上半身をさらしのみの格好になっても彼女は気にせず水に濡れた手拭いで顔の汚れや装束にしみ、素肌にまで及んだ血を簡単にふき取るとぱぱっと着流しに着替えをすませ、適当に荷物を纏めると早足に歩き出す。
門番や忍ぐらいしか起きているものもいない。
故に彼女はこの格好でうごけるのだが、昼間ならば絶対にしないだろう。
『(気持ちが、わるい)』
彼女はただ歩いた。
鉄の香をまとったような己の体を嫌悪しながら
執筆日 20130829
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