『っ』


おかしい。
政宗は走っていた。
馬ではなく、自分の足で走りだしてどれくらいか。


流された武田信玄と、そしてそれを追いかけた真田幸村がいない。
探しまわっているのは、彼女だけではない。先に出はらったやつらも探しているが、いまだに見つからない。

あんなに目立つ赤を持つあの二人が、



明智は政宗と小十郎の攻撃を防ぐこともなく受け、そのくせ、へらへらと笑い馬にのって去っていった。気味の悪いと思ったのは仕方がない。
だが、引いてくれて助かったとでもいえばいいのか

それともあの場所で討てなかったのが不運だったのか。
今は、戦力をそがれるほうが、問題かも知れない。



『っ見つけた!』



川の流れは比較的おとなしくなった。
急激に増えた川だがしいて言うならせき止められたものがおとなしくなった。といえばいいのだろうか。

武田信玄は比較的安全な川から離れたところにいるが真田幸村の体は半分川の中だ。

念のためにと持ってきていた忍笛を一度吹いた政宗。
武田も、伊達のも気が付くだろうと、そんな考えはいつものこと。それから足場に気を付けながら、坂を下り近くにいた信玄へと駆け寄る。
ひとまず、息はしているようだ。運よく出血もおさまっているらしい。

それを確認してから川辺で川にさらされている幸村の体を引き上げた。
炎の婆娑羅者であるが、今の幸村の体温は低い。



『おい、幸村!!おい!!』



動かない。そのことが酷く恐ろしい。水をたくさん飲んでしまったのか、顔は青い。

それが、「あの時」を思い出させる。



『っくそ。』



彼女の中で、昔の記憶がよみがえる。
軌道を確保するため、顎を上げさせ空気の逃げ道をふさいで、すぅっと息を吸った。





***


「政宗様、早く体を」

『大丈夫よ、』



真田幸村と武田信玄が運ばれていく。
その姿を見ていたら小十郎がどこから持ってきたか小十郎が私に傘を差しだした。
いまさらなそれに苦笑いをしてしまう。

けれど、やっぱり直接濡れるよりはいいかもしれないと、傘を受け取り濡れきった陣羽織を脱いだ。
すぐにその陣羽織は小十郎に回収されるがしいて言うなら鎧すらとりたい。重い…。



『さて…これから問題はあの若造ね。』

「…そうですね。」

『どうなるかしら、お館様大好きっこ。』



ふぅっと息をつき、ぐるりと肩を回す。
だいぶ体が冷えている。私もそろそろ帰ろうと身をひるがえした。


その私の背に小十郎も続く。
何人かは怪我をしているらしく肩を借りて歩いている

今回の痛手は武田軍。といったところだが…



『(この敗北は、おそらく真田幸村を大きく成長させることができる。)』



それが吉と出るか、凶と出るか…




『楽しみね』



思わず口から出た言葉。
小十郎から微妙な反応をもらったが、仕方がない。



20160905

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