階段を上り切った片倉小十郎は息を切らせていた。
その背には主である政宗の武器を背負い、彼女の願いをかなえるために

だが、彼には珍しくその額には脂汗をにじませて苦し気に膝に手をつく
「ちぃと、吸い過ぎたか…」とぽつりと悪態をつくのは仕方がないことなのか…。

かつん、かつんと、足音。視線を己の足元からその足音のほうへと向ければさらに先。
首のなくなった大仏に続く階段のその上。



「松永久秀…!」

「ごきげんよう、卿をまっていたよ。屍として運ばれてくると思ったが…」



「侮ってはならない様だ…」と松永の表情は少し楽しそうだ。
計画どうりではなかったはずなのにもかかわらず、それを「楽しみ」とさえとる彼。

普通ではない、だが、彼にとってそれが「普通」



「この片倉小十郎、伊達に竜の右目と呼ばれてはいねぇ…!」



小十郎の言葉、けれど次に視線が向くのは、松永のさらに奥。
大仏殿の柱に括り付けられた己が兵たちの姿。
それぞれが「政宗様の刀はダメだ。」と「助かりたいけど、渡してはだめだ、」と、それこそ彼らを思う言葉を投げかけける。

しばりつけられ、もしかしたら死んでしまうかもしれないのに。
なのに、自分のことよりも政宗のことを、彼女の武器のことを、思いやっている。



「すぐにかたをつける。もう少しそこでまってろ」



そんな兵たちの言葉を遮り、彼はまっすぐ松永を見てそういった。
彼の目には、決意。

彼女に「誓った」ことを守るために



「おどろいたな…本当に持ってくるとは…」

「ほしがりやがったのはテメェだろうが」



背に背負う、彼女の「誓い」。その「誓い」は今、「守る」ための礎になっている。
彼女が求めるならば、己は叶えたい。そう思うからこそ、己はここにきて、ここに立っている。



「独眼竜も愚かなものだ。たかが雑兵3人ごときに、宝刀を差し出すとは」

「そこらの軍と一緒にするんじゃねぇ。伊達には雑兵なんざ一人もいねぇんだよ!!」



彼女は、「失うこと」を恐れた。誰よりも多くの「宝」を失った戦の傷跡はいまだに彼女の背に、その右目に刻まれている。
そして一度は壊した心の後に、彼女は「失わないために強くなる」ことを選んだ。

そんな彼女を守りたいのは、己も…そして奥州にいる成実も綱元も同じ。

ならばそれを叶えるのは己だ。
けれど、喪うこともあるだろう。けれど、だ

小十郎の言葉に、つかまっている三人が静かに息を飲んだ。



「だからこそ、覚悟は出来てるものとして時には見捨てもする。」

「そうか。ではなぜ、天下の衰勢危うき今このようなものにとらわれのこのことやってきたのかな?今こそ一兵卒など見捨てるときだとおもうのだがね」

「しれたこと、ここはそいつらの死に場所じゃねぇ。」



するりと背に背負っていた刀の風呂敷をほどき、その身は軽くなる。



「この戦国の世に徒党を組みうって出た以上、最後まで誰一人欠けずに終えられるとはおもっちゃいねぇ。だがな。」



その両手に、彼女の「誓い」を抱き、語るのは彼女の願い。
何よりもその背から受けた己の役目



「それが伊達の流儀。そして政宗様の御意思。」



宙にその刀を投げれば、月に反射して美しく弧を描き、そしてまさしく竜の爪が刺さるごとく松永の足元に六本順に突き刺さる。
「そいつは一度くれてやる。」とそういった小十郎の言葉に、周りから驚きの声が上がるが、それをたった一言でしずめ、


ギラリと松永を見上げた小十郎の目には「勝利」しかない。




「そのうえで俺と勝負し、俺が勝てば人質と刀、改めて頂戴する。」



告げるのは、もはや勝利宣言。
それだけの自信が、彼にはあった。



20160905

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