『ほかをあたりなさい。優男のお兄さん。』


吹き飛ばしたが、痛みを訴えながらこちらをみて笑う前田に、そういった。
吐き捨てるようにそういって身をひるがえし歩きだす。



「お、おい!」



背に声が掛けられたが、スルーする。
あぁ、だが…


一度、足を止めた、

後ろについていた小十郎も立ち止まる。



『今度はしっかり目通りしてやる。
 後で屋敷に来い。


 もし、あんたが本当にこの奥州が幸せなものだというのならば』



つぶやくようにそういって、再び歩きだした。

先ほどまでの雨はやみ、灰色の雲の隙間から木漏れ日がさす。



「ほんと、いい女だね、独眼竜の姫さんは…
 女にしとくのがもったいない…」










「この小十郎、安堵いたしました。」

『何の話?』



前田との一波乱から数刻。
びしょびしょのままじゃいられないから着替えて、窓辺に座っていてけれど言われた言葉に首を傾げれば着替えた小十郎は優しく微笑んでいた。



「桶狭間にて、貴女様が魔王に臆されたことにございます。」

『テメェ、皮肉もいい加減に…』

「政宗様ご自身も、お気付きになられましたはず。」



けれど、小十郎の言葉にふと思い出すのはあの死を恐れない、屈強の眼。
まさに魔王。

その言葉に尽きる。

刀に添えていた手を、そっと離したあの行動。
ふと脳裏に浮かぶ、恐怖。



「あれは、貴女様が死ねない
 決して死んではならないお立場にあられることを全身全霊をもって実感した瞬間にほかなりません。
 あれこそ、民の命、その誇り、明日を一身にまとう者…一国の主の姿にございます、

 この小十郎が諭す前に、その鱗片は見えていました。
 そしてあの風来坊も、
しかしながら、




 挑まずにはおられますまい。

 奥州の民も、そして兵たちも一連托生の覚悟できておきます」



視線を、小十郎に戻す。


一連、托生…か…




『小十郎…』

「初陣以来、片時も離れたことのないこの右目も、ここにおりますれば。

 …もっとも、近頃は貴女様の背を追うばかりでしたが。」

『そう、だな』



小さく名を呼べば、すっと一度体制を変えたが、再び戻す。
それに若干の笑みを浮かべて、立ち上がった。


奥州は、大丈夫

綱と、それから成実はここに残し、向こうに向かうのは私と小十郎でいい。
なにより、こちらに何かあったときあいつらならばうまく兵を動かせる

だったら、もしも、小十郎や私に何かあったときは…




あいつらがどうにかしてくれる。




『誰かが戦(や)らなくちゃいけない。
 だったら、やるのはこの私だ。』



なにより、私はこの世のものではないのだから、
今こそ、役に立つときだろう。



恐れていたって、しかたはない。



『Go straight
 背中は預けた、小十郎。』

「承知。」



奥州の夕暮れ。

それはひどく美しく。



『(この光景が日ノ本にひろがればいいのに)」



執筆日 20130826

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