泣き声が聞こえる。
悲しい泣き声が…

ぴたりと馬の足を止めれば不思議そうに足を止めた蔵殿。

どうしても…この声に反応してしまう…。



『蔵殿、ここで少々待って。』

「え。」

『この声の主は…』



お市殿…

馬から降り、そして長剣を確認して歩きだせば驚いたように声が出されたが


私は、待て、といった。
その言葉を忠実に守り、そこからは動き出さなかった。

おそらく馬も隠してくれるだろう、

カラスの群を見つつ、崩壊寸前の城に足を踏み入れた。





この先に待っているものなど、知らず…






歩き歩き…そしてたどり着いたのはあの時…

織田信長を討ち取りし時あいた穴。

そこから月明かりが差し込み、けれど光とは別のところ…薄暗いそこに二つの人影、
一つからはうめき声と激しいもがくような動き。

けれど一つは悠々とこちらに歩いてくる。
そっと長剣に手を伸ばし、警戒する。



「フフフ…誰かと思えば、卿かね。」

『!』



けれど、一度は聞いたことのあるそれに、目を凝らす。
お市殿のすすり泣く声と、その男の笑い声。



「またあえて、光栄の至りだ、
 面白いものも手に入った。」



晒いまじりの語尾
月明かりの照らすそこまで歩み出てくる。



『…松永…久秀…なぜ、貴殿は…』



その姿は、真田が至宝の鎧と奥州が至宝である伊達政宗の六爪を求めしその男。
確かに…あの時片倉殿が…



「卿にも聞こえたかね、この痛々しい嗚咽…啼泣が…」



私の考えとは裏腹に、はぐらかすように空間を見渡す松永久秀
そしてくつくつとわらい歩く



「地の底より響く、呪詛のごとき魔王の妹との声を恐れ…ここへは誰も近づこうとしなかった。
 おかげでゆっくりと見分できていたのだが…


 邪魔が入ってね。」



そしてドシャリっと地面に転がされたそれ。
銀色の髪が無造作に地面に散らばった。

緋色の瞳が恐怖に震え私を映している

それと同時にその緋色の瞳からは…別のなにかを感じる



「まぁ、多少興味はあったのだよ。
 傷を癒し未来を語る天女とやらをね、」




しかし、予想外に興味もそそられないただの女ということだ。




紡ぎだすそのことばは、ひどく恐ろしかった。
どくどくと…何かが恐れを発している。



「醜いものは嫌いでね。
 こんなものを眺めるのであれば卿をめでたほうがよさそうだ。



 どうやら今は名を捨てたようだね。
 確か、麒麟だったかね?」

『…』



体を支配していくのは、恐怖とは違う、何かだった。
けれど、突然何かの気配を感じ、


あわてて飛びずさればそこに刺さったのは複数のクナイ


そして着地する黒。



『風魔…どの…』



いつの間にか松永は背を向け月明かりに照らされながら月を見上げている。



「幻想だよ。」

『っ』

「卿が今見ているものは、すべて幻想だ。
 なに、安心するといい。



 卿は誰にも必要とされていない」



そして、紡がれた言葉にドクリと心臓が蠢く。
やめて…やめて…っ



『やめ、て…』

「なに、一瞬だ。
 卿はこの女がどんな存在か知らないのだろう」

『まて…やめろ…』



頭が、警戒音を発する。

割れるように、痛い。


どうして…この女を殺しに来たのは…私も同じ、なのに




「なぜ卿がおびえる、





 卿も、いま私がやろうとしていることと同じことをしようとしているのだろう」



左手を腰に当て、そして片手は









パチンッ








目の前が赤に染まる。
警戒音が消え、



同時に、








ブツリっと、神経が切れるような不気味な音が耳元でした。





それは世界の





終わりと…








執筆日 20130821



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