『半兵衛様が?』
片倉殿にあって数日。
現在由利鎌ノ助の動きを知るために走らせている日向殿の代理で奥州より帰還した光毅殿の口から出たのはその名前。
半兵衛様が、呼んでいるというもの
伊達包囲網の策が終わって、あの方々が帰還して…もう数日。
おそらく、あの天女にも…半兵衛様はあったのだろうか…
あの方に限って…
『(また…独りになる…?)』
いや、もともと私は独りぼっちだ。
なのに、いまさら恐れることなど何もない。
大丈夫、大丈夫だ。
「厚手がましいと思いますが、片倉殿に会うのであれば今宵が最後かと」
『…そうだな…。』
片倉殿は、堕ちなかった。
つまり何かしら堕ちる条件があるというもの。
何かはわからないが…それでも…私は今はもう麒麟であって真田幸ではないのだから…。
『半兵衛様の元へ向かう。』
「では、某はこれにて」
『あぁ、報告感謝する』
私の言葉にシュタリとその場をたった光毅殿の姿を追うこともなく月の光が差し込む縁側から立ち上がってそして歩き出した。
捨てられるのならばそれで構わないから…
『半兵衛様、麒麟にございまする。』
半兵衛様の私室の前。
膝をつき、頭を下げてそういえば中から「入っておいで」とやわらかい声が聞こえた。
一言断りを入れ、それから部屋に入れば彼はいつもの戦装束ではなく着流しで。
けれど部屋は明るくなく、月明かりのみがてらし…
今にも消えてしまいそうなほど…半兵衛様ははかなく…ぞっとした。
『半兵衛様…?』
「こんな時間に、呼び出してごめんね。
君に一つ頼みごとがあって。」
『頼み事に…ございますか?』
けれど、はっきりとしたその言葉にひどく安心する。
あぁ、いつもの半兵衛様だと…
「天女の抹殺。」
『!』
「君なら、できるよね?」
そして言われた言葉に、一度、
己の耳を疑った
執筆日 20130818