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「何をしている。」
『・・・・・石田・・様・・っ』
着いた場所には、身体を震わせ涙を流す弥月が居た。
まさか、私が・・否・・人が来るとは思わなったのか、血水に濡れた袖で涙をぬぐい、そしてひざまずく。
『もう、しわけありま、せん・・・勝手な行動をしたばかりか・・・こんな醜態を・・・』
「・・・何故泣いていた。」
そして、そう言った。
その言葉にそういえば、弥月はただ、黙っていた。
「拒否は認めない、答えろ。」
有無を言わせず、言う。
それに、顔を上げた弥月の目から、また涙。
けれど、笑っていた。
『・・私は・・・罪深き殺人鬼です。』
「・・なに?」
『私は、人を殺したことはありません。
あの日、初陣で人を殺ししとき、私は全てを捨てたと思いました。
けれど、この心が私に訴えるんですよ・・・この狂った小娘と。』
そして、そのまま弥月は己の手を見た。
その手は、戦が始まる前とは見間違えるほど焼け爛れ、血に濡れていた。
その手を見て、弥月は笑った。
「この血に濡れる手が、私を責めるのです。
人の命を救うくせに、人の命を奪うのかと・・・
人殺しと、
恨みを私に。」
また、弥月の頬に涙が流れた。
*-*Side Mitsunari End*-*
こんなこと、言うつもりなんてなかった。
自分で紡ぐことばに知らず知らず涙が出てくる。
現代では人を殺すなんて、刀で斬りつけられるなんて、殺意を向けられることなんて、なかった。
それが・・・今は普通。
この手だって、現代じゃ絶対に考えられない
私はその中で今、生きている。
『私の国は酷く平和で、人を殺せば罪になり罰を与えられ、人々は笑顔で居ます。
私は、大罪を犯し、そこを追い出された。
その罪が…これならば…』
笑う、
痛みが侵食している手。
けれど、私は生きている。
まだ・・・此処に・・・
そう思ったとき、フワリッと抱きしめられた。
同じ、赤に濡れた人。
「安心しろ。」
『ぇ・・・』
「仮に貴様の手が他人の血で汚れていようが、私の手はすでに貴様よりも汚れている。」
『!』
「・・・私を頼ればいい。
半兵衛様のように微笑むことも、秀吉様のように何か与えられることも、家康のように、話し続けることもできない。」
けれど、心臓がいたくなる。
壊れそうだ。
離して、と手に力を込めようとしたけれど、身体は金縛りにあったように動かない。
「だが、剣術を教えることはできる。
戦では貴様に背をまかせ、貴様の背を護ってやろう。
泣く貴様を抱くことは出来る。」
『っ・・・石田様・・・』
「泣け、泣き足りないだろう。」
パキ・・・小さく音をたてて、壊れた。
ガラスが割れて、中を埋め尽くしていた、それがあふれていく。
『っふ・・・う・・・ぁあああ!!!!』
そのまま、すがりつき、泣いた。
泣いて、泣いた。
ただ・・・
殺してしまった人たちと、狂って逝く私を感じて、泣いた。
*-*哭岐泣練*-*
《(こんなに泣くのは、すごく、久々だ)》
((こんなにも・・・一人で溜め込んでいたのか))
猫の選択は善か悪か
だんだん、白かった猫の毛が赤く染まりいく。
どこにも進めぬ猫。
そのことに泣き
染まり行く心に
猫は泣いた
*-*-*-*-*-*
人が選択や心がけによって、善人にも悪人にもなることで
人生の分岐点で選択する苦悩と可能性をいう言葉
「哭」は大声で泣くこと、「岐」は分かれ道、「練」は白い糸
分かれ道や練糸の色と同様、人はどのようにも人生を選択でき、また、どのようにも変わっていくということです
執筆日 20130305
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