成歩堂なんでも事務所 お正月編 1

お正月的 逆転裁判4小話

― 2027年 元旦 ―

オレは数通の郵便物を握りしめ、成歩堂なんでも事務所の扉を開いた。

「こんにちはー、成歩堂さん、みぬきちゃん居ますかー?」
「あ、オドロキさん!あけましておめでとうございます!」

事務所の奥からひょっこり顔を出したのは、ここの所長のみぬきちゃん。
元気な新年のあいさつと共に近くにやって来て、ぐいと両手を差し出す。

「あけましておめでとう……って、何この手?」
「お正月ですから」
「……うん。お正月だね」
「ホラ。みぬきはまだ中学生で、オドロキさん一応は成人してますし!」
「『一応』は余計だよ。……で、それがどうかした?」
「もー、とぼけたってダメですよ!」

両手を腰にあて、ぷぅと頬をふくらませるみぬきちゃん。

「お正月といったら、コレしかないです!お・と・し・だ・ま!!」

怒ったような口ぶりで言ったあと、にっこり笑ってまた両手を差し出された。

「あー、はいはい」

ちぇ。しらばっくれようと思ったのに。
さすが、みぬきちゃん。ちゃっかりというか、しっかりしている。「お年玉なんて、すっかり忘れていたよ。ハハハ」では、済ませてくれないようだ。
仕方なく、オレはゴソゴソと財布からお金を取り出し、ポンと手のひらに置いてあげた。

「はい『お年玉』」

しばし、みぬきちゃんは「お年玉」がのせられた手をみつめると……

「500円じゃないですか!」
「ちゃんと、お年『玉』だろ!!」
「1枚じゃ少なすぎです!!!」

ワガママだな、みぬきちゃん。

「じゃあ、あと3枚足してあげるから」

しぶしぶ、再び財布を取り出して、ぶうぶう言うみぬきちゃんの手に硬貨を追加する。
チャリン、チャリン、チャリン……

「……3枚って、百円玉3枚じゃないですか!?オドロキさんのケチ!」
「しょうがないだろ、給料少ないんだから!文句があるならピアニストなのに、ピアノが弾けなくて仕事が入ってこない副所長に言ってくれ!!」

オレは悪くない。悪いのは、この事務所の給料支払いだ。
……などと言いながら、みぬきちゃんとギャーギャーやっていると……

「正月早々、玄関先でベースアップの交渉かい?」

割って入ってきた声の方を向けば、げっ!?
ピアノが弾けないピアニスト……もとい、成歩堂さん!!!

「あ、パパ」
「春闘の時期には、まだ早いんじゃないかなぁ」
「う。いや、その……」
「で、何?元日から給料の文句を言いにきたのかな?君は」

面倒くさそうに言う成歩堂さんのツッコミで、オレは本来の目的を思い出す。
そうだ。確かに給料に文句があることにはあるが、今日言いたかったのはそれじゃない。

「ち、違います!オレ、2人に聞きたいことがあってここに来たんですっ!!」

その言葉に顔を見合わせる成歩堂親子。

「ま、詳しい話は奥で聞くから」

そうして、こっちこっちと手招きされて、オレは所長室へと通されたのであった。







「……で、僕たちに聞きたいことって何だい?」

手品の道具が所せましと置かれた所長室。
みぬきちゃんが紅茶からウーロン茶に変えたお茶を手に、オレは成歩堂さんを正面に、みぬきちゃんが横に座る形でソファに腰かけていた。

「これなんですけど……」

オレがここに来た本来の目的。自宅から持ってきた郵便物をテーブルの上に広げる。

「あっ、みぬきが書いた年賀状だ」
「……それと、僕が出した年賀状もあるね」
「ええ、2人に聞きたかったのはソレのことです」

ん?と、腕を組んで首をかしげる成歩堂さん。

「2人別々に出したのは、ウザかったかな?連名にして1枚にすればよかったね、みぬき」
「そうじゃなくて!」
「そうじゃなければ、どうなんだい?オドロキ君」

オレはその場で立ち上がり、大きく息を吸うと

「2人とも全く読めないじゃないですか!みぬきちゃんのは、真っ白だし、成歩堂さんのは裏一面が赤紫だし!!成歩堂さんのは、年賀状なのにホラーですよコレ!!!」

一気にまくしたてた。

これらの奇妙な年賀状をポストで発見してから数時間。
自室で「自分はナニかしでかしたのか?それとも、これは暗号か?」と、アタマを抱えて悩むも回答は出ないまま。……結局、『成歩堂なんでも事務所』に聞きに来たのである。

そして答えがわからない憤りも込めて、赤紫色に染まる不気味な葉書を「くらえ!」とばかりに成歩堂さんの鼻先へとつきつけた。

「あぁ、これねぇ……」

オレの大声にうるさそうに顔をしかめると、成歩堂さんは突きつけられた年賀状をそっとつまむ。そして、それをヒラヒラと動かしながら

「グレープジュースをこぼした上に、落っことしちゃってね」

……ハイ?

「一枚だけだったから、交換に行くのも面倒だなーって」

も、もしや暗号でもなんでもなくて……

「そのままオレに出しちゃえー、ってコトじゃ……」
「うん、ズヴァリその通りだよ。オドロキ君」

ニヤリと笑いながら、成歩堂さんはグレープジュース色に染まった裏面をこちらに向けたのだった。

「……ようは、成歩堂さんがものぐさだった。ってだけで……」

一気に体の力が抜けて、ドスンとソファに座り込む。
成歩堂さんの年賀状は見たまんま、何のメッセージも込められていなかったのである。

「もー、パパ。上から油性ペンで『今年もヨロシク!』ぐらい書いておけばよかったのに」

「しょうがないパパだなぁ」と、言いながらお茶を飲むみぬきちゃん。だが、彼女も謎の年賀状の差出人の1人である。

「あのさ。そういう、みぬきちゃんも年賀状が真っ白だったんだけど。……牛乳の上にでも落としたの?」

しかし、出した本人は「あれ?」と心当たりがなさそうに首をかしげる。

「パパと違って、みぬきはちゃんとごあいさつを書きましたよ。気付きませんでした?」
「えっ、何も書いてないだろ!?……あぶり出しかと思って火にあてたけど、出てこなかったし……」
「なるほど。それでみぬきの年賀状、少しコゲてるんですね」

宛名面がやや茶色になった「差出人 成歩堂みぬき」の年賀状を手に取る、みぬきちゃん。
そして「ジャーン」とドコからか取り出した鉛筆を右手に握る。

「……もしかして、いまから挨拶を書く気じゃないだろうな」
「まさか!いいですか、よく見てくださいね」

裏面を上にしてテーブルに年賀状が置かれた。
その上を、擦るように鉛筆を滑らせる……と

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