成歩堂なんでも事務所 社員旅行編
※この文章は未完成です。中途半端なところで終わります※
真っ赤な数字たちが目の前に並ぶ。
ドコを見ても赤、アカ、あか。
オレは、深ーいため息を1つ吐くと、赤い数字が並ぶ冊子をパタンと閉じた。
「深刻そうな顔してるねぇ、オドロキ君」
「ダレのせいだと思ってんですか」
「え?弁護依頼が来ないオドロキ君のせい?」
「仕事しないで事務所でゴロゴロしている成歩堂さんのせいです」
顔を冊子から上げると、自称ピアニストがソファでダラダラする光景が目に入り、オレは再びため息をついた。
……ただいま『成歩堂なんでも事務所』は、危機的な財政難に直面していた。
事務所の経営、そして維持していくのには、何かとお金がかかる。
家賃にガス、水道、電気などの光熱費、電話等の通信費、成歩堂さん親子の生活費やオレの給料などの人件費、その他もろもろ……。全て自分たちで、なんとかしていかねばならない。
ただでさえ事務所の経営は苦しいというのに、ここ2〜3ヵ月の間は成歩堂さんとオレへの仕事の依頼は、プッツリと途絶えてしまっていた。
トーゼン、お金は入ってこない。
現在の唯一の収入源は、みぬきちゃんが『ビビルバー』のマジックショーで貰う出演料。
しかし、女子中学生が稼ぐ金額なんてタカが知れている。事務所の維持はどう頑張っても無理な話だった。
「どうするんですか?この赤字」
今さっき見ていた、赤字だらけの帳簿をバンバン叩きながら目の前の成歩堂さんをにらみつける。
「しょうがないじゃないか。ピアノ演奏の依頼が入ってこないんだし」
「腕に問題が大アリですからね。演奏依頼には元から期待していませんよ」
成歩堂さんは「ひどいねぇ」と呟いたが、オレは事実を言ったまでだ。
それに本当にヒドイのは、ピアノの「ド」の位置がわからないのにピアニストと言い張る成歩堂さんのほうだろう。
「ピアニストとしてじゃなく、ポーカープレイヤーとしての仕事は入ってこないんですか?」
「あぁ……。ナラズモの間で殺人事件に巻き込まれてから、イワク付きのポーカープレイヤーになっちゃってね。「縁起が悪い」って敬遠されて客が寄りつかないんだよ」
「あぁ、そうですか」
ポーカープレイヤーとしての腕は確かなのだが、客が来ない以上はどうしようもない。
原因は、あの時の牙琉先生……もとい、牙琉「元」弁護士の行動。
結果としては失敗に終わったものの、意外なトコロで成歩堂さん含め事務所に多大なダメージを与えていた。
先生。予想外なところで、成歩堂さんに復讐できてるみたいですよ……。あの悪夢のような初法廷を思い出して、オレはまた溜め息をついた。
「ポーカーの仕事は、歩合制だからさ。いまボルハチに行ってもしょうがないんだ」
そんなワケで。
昼夜逆転生活を送っていた成歩堂さんもすっかり、普通に夜に寝て、普通に朝起きて、普通に昼は事務所でゴロゴロする生活になっていた。
……いやまて。最後のは普通じゃない。
「ゴロゴロしてないで、アルバイトでもなんでもいいから、事務所にお金を入れてくださいよ!じゃないと、今月も事務所の家賃が払えないんですから!!」
「え?家賃、滞納してるの?いつから?」
「今現在、2ヵ月分が未納になってます」
「うーん。それは危険だねぇ……」
よかった。ようやく、成歩堂さんも危機感をおぼえてくれたらしい。ホッと胸をなでおろしながら、話をすすめる。
「ですから。ポーカーにこだわらないで、派遣でもアルバイトでも……」
「知ってた?3ヵ月家賃を滞納すると、追い出されちゃうんだよここ」
へぇー。来月、家賃を入れないと追い出されちゃうんだー。知らなかったなぁー。
……って。
「嘘だろぉーーー!??」
「ホント」
「そんな、恐ろしいコトをへらへら笑いながら言わないでくださいよ!!」
「『ピンチのときこそ、ふてぶてしく笑え』ってのが、僕の師匠の教えでね……」
「いや、ソレはここで使うべきじゃない気がしますけど!?……っていうか、笑ってごまかしてるようにしか見えませんから!!!」
発声練習を重ねて鍛えた、オレの大声が事務所に響く。
「あああぁ!もう今月からみぬきちゃんの出演料は、全部家賃に充てますからね!とりあえず、仕事探しに行きましょう!!今すぐ!!!」
「まぁ、落ち着いてオドロキ君」
「何で落ち着いてんだ、アンタはーー!!??」
さらに、オレの絶叫が事務所に響き渡った。
うるさそうに顔をしかめる成歩堂さんが視界に入る。……が、そんなことはどうでもいい。
どうしよう、どうしよう、どうしよう!
法廷でも味わったことのないような、心拍数の上昇が自分を襲う。
ここは落ち着け!落ち着いて考えるんだ、法介!!
大きく息を吸うと、オレは今後のことについてアタマをフル回転させた。
……とりあえず、みぬきちゃんの出演料を家賃に充てるとしよう。
しかし、ほかに必要な光熱費や給料はどうすればいい?
追い出されるのを回避できても、それだけでは生活が成立しない。
オレが働くといっても、急に弁護依頼が入った場合を考えると長時間の勤務は難しいし、成歩堂さんもこの調子じゃ、アテにならないし……。
そうして、落ち着いて考えた結果は。
【このままいけば、破産。】
絶対にヤだぞーー!!自分の所属事務所の破産申告なんてぇーーー!!!
脳内シュミレーションで、うっかり暗ーい未来に辿りついてしまい、思わずオレは頭を抱えて目の前のテーブルに突っ伏した。
「ただいまー」
そのとき。危機的状況なんて知りもしない、事務所の所長の声がオレの耳に入ってきた。
どうやら学校からみぬきちゃんが帰ってきたようだ。
「おかえり、みぬき」
「みぬきちゃん、おかえりいぃぃ」
「どうしたんですか、オドロキさん。なんだか、泣きそうな顔してますけど」
泣きたい。確かにこの状況は、泣きたい。
「みぬきちゃん……。『成歩堂さんを尊敬していた、過去のオレ』を消してしまいたいんだけど、何か方法はない?」
「うーん。みぬき、人の過去は消したことはないんですけど……そうですね。一度、消火器でガツンと殴られてみるなんてどうでしょう?」
「消火器か……。ねぇ、いっそのこと、ガツンと成歩堂さんを消しちゃったほうが事務所のためになると思わない?」
「……目の前で殺人予告はやめてほしいね」
事情を知らないみぬきちゃんは、怪訝そうな顔をして成歩堂さんのほうを向いた。
「パパ。オドロキさん何かあったの?」
「それがね。困ったことに事務所の経営が大ピンチなんだよ、みぬき」
しかし、言葉とはうらはらに成歩堂さんにはまったく困った様子がない。
「ほがらかに成歩堂さんは言ってるけど、本当に大変なんだ。ごめんね、今月からみぬきちゃんの出演料は家賃に充てて、オレ……」
「あのね、オドロキさん。みぬき、言い忘れてたんだけど……」
「な、何……?」
みぬきちゃんにジッと見つめられる。なんだかイヤな予感がする。ものすごく。
「ビビルバーが改装工事をするんだって。今日から1ヵ月間。それでステージもお休みだから、みぬきの出演料は入ってこないの」
「う、嘘だろぉーーーー!??」
「ホントです」
軽いジョークだと言ってくれることに一縷の望みを託したのだが、サラリと肯定されてしまった。
「大丈夫ですか、オドロキさん?なんだか、死にそうな顔をしてますけど」
「事務所をなくして、給料も出ないから住むところも追い出されて……。これからオレ、『ホームレス弁護士』として生きていかなきゃならないんだぁー……」
「ある意味、新しいね。体験談を出版したら売れるんじゃない?そのときは、何かおごってよ」
売れたとしても、印税は一円たりとも成歩堂さんには渡さない。
「オドロキくん。殺気を放ちながら、本気で消火器を探しに行かないでくれる?モチロン冗談だよ、冗談」
「そんなところで、ジョークはいりません。頼みますから、真剣にこの状況の打開策を考えてください」
消火器はドコにあったかな……と、アタマの片隅で考えながら成歩堂さんをにらんでいると。
「オドロキさん、オドロキさん!」
みぬきちゃんに、服を引っ張られた。
「オドロキさんもパパも仕事が無いってことは、お休みなんですよね!」
「そうだよ。……あのさ、みぬきちゃんは危ないから下がってて。その休みをなくすために、今から成歩堂さんとコブシも混じる大人の話し合いをするから」
しかし、服から手が離れる様子はない。
「みぬきも、今度のゴールデンウィークになったら学校に行かなくていいんです。みんな、お休みですね!」
「……へぇ、そうなんだ。だから……」
「だーかーら、旅行にいきましょう!!」
……?
…………えーと……今、なんて言った?
今の状況からは、考えもつなかない単語が聞こえたような?
「今なんて言った?」
「だから、旅行です。トラベルです!みんなで社員旅行に行きましょう!」
なぜか俺の話がなかったことにされているような発言が、みぬきちゃんの口から飛び出す。
「あのさ、みぬきちゃん。今までの話ちゃんと聞いてた?ほら、成歩堂さんも親として一言、注意してくださいよ」
本当に、なにを言い出すんだろうこの子は。
「そうだね。行こうか旅行」
「そうだよ、みぬきちゃ……って、ええぇっ!?成歩堂さんまで何を言ってるんですか!??」
本当、なにを言い出すんだこの親は!!!
「発想を逆転させよう、オドロキくん。働いていたときは、ロクに休みが重ならなかったんだ。こういうときだからこそ、全員で旅行にいけるんだよ」
「でも!」
今、事務所の経営はドン詰まりなんだぞ!?
「行き詰まったときはね。一旦すべて忘れてリセットしたほうが、案外いい方向に向かうんだよ」
う、うーん。
そういうもん……なのかな?
「一度、リフレッシュしてさ。仕事のことを考えるのはそれからにしようよ。『モノより思い出』って言葉もあるじゃないか」
「でも、そんな余裕がこの事務所には……」
一理あるような気がするけど、そもそも先立つもの(旅費)がない。
「実はね、社員旅行の旅費として取ってあるお金があるんだ」
「えっ!?そんなものが、あったんですか!??」
「うん。みぬきと社員旅行には毎年行っていてね。恒例行事だから」
「とっ、と、とりあえず!そのお金を家賃にあてましょうよ!」
よかった!それでしばらく事務所が、持ちこたえられるかもれしない!
「あー、オドロキくんは夢がないなー。ダメだよ。社員旅行のお金なんだから他に使っちゃ。ねぇ、みぬき」
「そうですよ!旅行以外に使うことは、所長のみぬきが許しませんよ」
「その所長の座がピンチなのに、なにノンキなこと言ってんだよ!」
「えーでも……。みぬき、オドロキさんと社員旅行に行くのをずっと楽しみにしてたのに……」
「う……」
シュンと、うつむいて「一緒に旅行に行くのを楽しみにしていた」なんて言われたら、もう反対なんて出来なかった。
「……仕方ない。みぬきちゃんたち、なにを言っても聞かなさそうだしな」
「え!じゃあ決定ですね。やったぁ!」
みぬきちゃんがうれしそうに、その場でくるくる回りだす。
まぁいいか。
どうせ、旅行といったって「格安バスツアー」とか、「熱海で1泊2日」だろうし。
帰ってきたらすぐさまハローワークに成歩堂さんを連れて行けばいい。
満面の笑みでみぬきちゃんは、旅行の計画を練り始める。
「ねぇ、パパ。みぬき、おととし行った『あそこ』に行きたいなぁ!」
「はっはっは。みぬきは、本当にあの街が好きだなぁ」
「うん!夜景がキレイだし、ホワイトタイガーやイルカもいるし、ゴンドラにも乗れるし、いっぱいマジックショーが見れるから!!」
……ん?夜景がキレイで、ホワイトタイガーやイルカにゴンドラに、マジックショー……?
近くにそんなトコロあったか?
「みぬきがそういうなら、今年は『あそこ』にしようか」
「えーと、成歩堂さん。『あそこ』ってドコなんですか?」
「あぁ。『ラスベガス』だよ」
えーと……。聞き間違いか?
「……すいません。よく聞き取れなかったみたいなんで、もう一回お願いします」
そうして成歩堂さんはゆっくり、さっきよりハッキリと言いなおした。
「うん。だから『ラ・ス・ベ・ガ・ス』」
……
…………
オレの頭がその場所をはじきだすまで、数秒。
「はあぁぁぁーーー????」
バニーガールのお姉さんがいるカジノと、ムダに豪華な砂漠のど真ん中にある街(イメージ映像)が出てきた瞬間、大声で叫んでいた。
「『ラスベガス』ってアメリカですよね!?海外じゃないですか!??」
「日本では、カジノは違法になっちゃうからね。毎回、必然的に海外だよ」
返ってきた答えはツッコミどころだらけだった。
「毎回、海外なんですか!?っていうか、目的が観光じゃなくてカジノ目当て!?」
……
…………スミマセン。いったんここで終わりです。
コレを書いたのは2009年ごろ……?
なんとなくオチまで書いたメモはあるですが、続きの細かいところががなかなか書けず。
ガイドブックで現地(ラスベガス)のとか調べたんだけどね……。海外旅行どころか飛行機さえまともに乗ったことがない自分にはハードルが高すぎたのか……。
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