青空日和


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1.王と少女の日常



ランドセルの持ち手をしっかりと両手で握りながら、小さな足で地を蹴り、ぱたぱたと忙しなく駆け回る元気な少女ーーー青
数十分後、目的地ーーー教会に着けば、はあはあと息を切らしながらも嬉しそうな、わくわくとした表情を浮かべる。額に滲む汗も気にせず、呼吸を整えながらそのまま教会の戸を両手で押し開けた。

中に入るとしん、と静まり返っており、物音一つ無い教会。神へと祈りを捧げる神聖な場所。窓から差し込む光は何だか仄暗く、少女をどこかそわそわと不安にさせる。

しかし、青が教会は来たのには神へ祈りを捧げるためではない。ある人物に会う為であった。丁度、神父は不在のようで、恐らく自室にいるのであろう。すぐにその人物の居場所を聞くことはできない。

きょろきょろと全体を見渡しながら、前の席の方へ突き進んでいく青。隠れてるかもしれないというポジティブ思考により席を横から全て覗き込むも、お目当の人物は勿論居らず、居ない…と分かり易すぎるほどに落胆した。
踵を返し、とぼとぼと教会から帰ろうとした瞬間、仄かに鼻孔を擽る、甘くも気品のある匂い。青は嗅ぎ慣れた匂いに素早く反応し、パッと顔を上げる。視線の先にはいつの間にか、1人の人物が教会の入り口すぐの席へ、堂々たる態度で脚を組み、座っていた。

その人物は、輝くような金色でさらさらとしながらも少々男子らしくツンとはねた髪、蛇のように鋭く深い深い真紅の瞳、誰がどう見ても美しいと思うであろう端正な顔立ちが特徴的であった。その美しさはどこか不気味さも感じられるが。

そう、そんな人物こそが青の会いたがっていた人物であった。


「ギルさま!」


ギルさまと呼ばれた彼の鋭く蛇のような真紅の瞳が、青を捉え、離さない。青もその真紅の瞳に釘付けとなり、その瞳を見つめたまま非常に嬉しそうにぱたぱたと駆け寄った。
青が席の横で立ち止まった時、ゆっくりと口を開く彼。


「毎日毎日、よくもまあ飽きずに来るものだ。その健気さは認めてやろう、雑種」


僅かに口角を上げ、実に偉そうな態度で言葉を紡ぐ彼の正体、それは古代ウルクの王であり英雄王と呼ばれる、ギルガメッシュという男だ。10年前に行われた聖杯戦争時にサーヴァントとして召喚されたのち受肉し、現在は二度目の生を受けている状態だ。

しかし青はまだまだ幼い故に、そんな彼の立場や状況など詳細に知っている訳もなく、ただ自分の事を構ってくれる王様?という認識をしている。

故に敬意を示す訳でもなく、ただ己の感情に従い、興奮した様子で目をキラキラと輝かせる青。先程まで席には誰も居なかったのにも関わらず、突如として現れたギルガメッシュに興味津々のようだった。


「ギルさま、まるでニンジャみたい!」

「戯け。忍者などという使い捨ての駒でこの王たる我を例えるでない」

「でもニンジャ、かっこいいよ!」

「はっ、何を言うかと思えば…忍者よりも王の方が格好良いであろう」


かの英雄王に不敬だと命を奪われかねないような言葉を次から次へとぽんぽんと口から発する青と、特に苛立つ様子も無く、落ち着いた口調で淡々と言葉を返すギルガメッシュによって実にテンポの良い会話が繰り広げられた。

その最中に突然、青が はっ!と何かを思い出した様子で背負っていたランドセルを床に下ろし、ごそごそと中身を漁り出す。ギルガメッシュはその光景を何も言わずに見下ろし、眺めていた。
数秒後、青が両手でパッと取り出し、彼の目の前に突き出したのは少々大きめな一冊の本であった。


「ギルさま!あのね、この本、とってもかわいいの!ギルさまもいっしょに読もう?」

「ほう…お前の持ってきた書物など、たかが知れている故、興味は無いが。…まあ、どのような書物なのかは見定めてやろう。そら、我に聞かせ、見せてみよ」


ギルガメッシュは慣れているかのように脚を組むのをやめ、少々股を広げた後、続けて「いつまで我の横に立っているつもりだ?赦す故、疾く座れ」と白々しく問い掛けた。すると、こくん、と頷き本のみ両腕で抱き締め、彼の両腿の間にすとんっと腰を下ろす青。丁度ピッタリ収まり、彼の程良く筋肉のある上半身へ凭れかかる。
現在のギルガメッシュを知っている人物達にこの光景を伝えてみても、あり得ないと即座に否定されそうな、ほのぼのとした光景であった。

そのまま青は少々大きな本を小さな手で開くと、その本のページには様々な小動物の写真が掲載されており、所謂、児童用の写真付き図鑑だった。動物写真など見て何が面白いのか、生前、様々な動物を散々見てきたギルガメッシュは如何にもつまらなそうな表情を浮かべた。


「ふん、ただの畜生の写真ではないか」

「ちがうよ!動物の写真!」

「畜生も動物も同じ意味だ、しかと覚えておくが良い」

「そうなの?…ちくしょー…」


腑に落ちない表情で、畜生という言葉を呟く青。

ちなみに、基本的にギルガメッシュは知識豊富過ぎる故に、発する言葉は難しく尚且つ遠回しな時があるので、一般的な大人が聞いても完全に理解するのは難しいのではないかと推測される程。
しかし幼き青が、普段己の使う言葉があまり理解出来ない事くらいギルガメッシュは理解していた為、幼子でも理解出来るような言葉を用いる事が、ほんの少々であるが多くなった。
それでも青は知らない言葉が多いようで、高頻度でこのようなやり取りをする。

青はギルガメッシュと話しながらもページをめくっていると、ある小動物の写真が掲載されているページを見つける。すると、腑に落ちていなかった表情から一変、明るい表情になり、人差し指で、その小動物の写真を指差す。

「ギルさま、見て!白うさぎ!わたし、この中でこのうさぎが一番好きなの、目が真っ赤だから」

「目が真っ赤だから、とな?」

「うん!うさぎの目、ギルさまとおそろいだから……いいなぁ、ギルさまとおそろいの目!」

青はパッと上を向き、見下ろすギルガメッシュの真紅の瞳と視線を交わせれば、楽しそうに笑う。

「ふっ、…愛い奴よ。」

ギルガメッシュは双眸を細め、柔くも甘い声色で言葉を零しつつ、青の丸々とした大きな瞳を見詰める。そのまま、さらさらとした髪に指を通し、梳くようにひと撫でしてやると青は非常に心地良さそうに、かつ嬉しそうにへにゃっと顔を柔らげる。それ以降、本を読み終えるまで「ふふふ」と本で口元を隠したり、にこにこと満面の笑みを浮かべ続け、終始ご機嫌な様子だった。まさに青にとって幸せなひと時である。


「おや、今日も来ていたのかね。少女よ」


そんな幸せなひと時に、ふと、前の方から地に響くような低い声が聞こえた。


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