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「#エロ」のBL小説を読む
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標的14 滴る高揚感





「何タラタラしてんだい。早くしな。」

「……うーす……。」

早朝、午前五時。いつもより少し早い時間に家を出れば、向かう先は並盛の北山ではなく、歩きなれた商店街のアーケードの下。
さすが商店街と言うだけあって、もう青果店や魚物店は明かりがついている。

「……ほんとに行くとはな。」

ボソリと梅には聞こえないように悪態をつく。昨日の酔いの席の話かと思えば、本当に朝っぱらから竹寿司へと歩みを進めていくのだから。まぁ、梅さんが酔っ払って冗談なんて、言ったことは今までの一度だってないが。

「開いてるかい?」

準備中という看板が下がっているのにも関わらず、全くもって不躾に、引き戸を開く梅さん。店内では朝も早いというのに、剛おじさんが既に仕込みをしていた。
突然の来訪者に目を丸くするおじさん。そりゃそうだろうなぁ。梅さんはもう少し自分の容姿が、良い意味でも悪い意味でも、人目を引くことをわかった方がいいと思う。

「梅さん?ご無沙汰してます。」

「久しいね、剛。元気そうで何よりだ。」

そう言えば、剛おじさんと梅さんは何度かあったことがあるんだったか。でもそれにしたって、こんな早朝の訪問は、流石に予想できていなかったようで、バタバタとカウンターから出てくるおじさん。

「日本へ来てたんですか、何だってこんなところに……?」

「いや何、あんたんとこの小僧に用があってね。」

「武に?そりゃまた一体……。」

疑念を持った顔で、首を捻るが、すぐに何かを察したように穏やかに笑みを浮かべた。そして、一旦店の奥に引っ込んだかと思えば、一本の竹刀を手に戻ってくる。

「……桜ちゃん、こいつを武に持って行ってやってくんな。あいつなら今朝のロードワークで、いつもの土手沿い走ってっから。好きに連れていってくれ。」

私にそう言って時雨金時をわたすと、何も聞かない、そう言うかのように芯を持った瞳で、梅さんを見つめるおじさん。武のことだから、おじさんにリングの話も、ヴァリアーの話もしてないのだろう。というか、武本人がそのことに関してきちんと理解しているのかすら疑問が残る。
だが、おじさんは何も言わず何も聞かず、その武に剣を教えてくれたのだ。おそらく、おじさんは少々ばかり、察しているのかもしれないが、それでもそこまで安心して放任出来るのには、時雨蒼燕流への強い信頼と、なによりも武への愛情があるのだと思う。

「桜ちゃんの強さは俺もようよう分かってる。だがな、俺の倅は強いぜ、桜ちゃん。」

剛おじさんはその時やっと、いつも通りの父親らしい、豪快でかつ、誇らしげな笑顔を浮かべて、顔を破顔させる。その笑顔に、幼馴染の成長を想像して、少し、背筋が冷えるのと同時に、待ち遠しいとも言える期待が駆け巡った。
ズシリと重い、時雨金時を受け取って、『花鳥風月』とともに背負いあげる。

「行くよ。」

言いたいことだけ告げ、さっさと出ていってしまう祖母。私も、おじさんに会釈してから、その背を追いかけた。




「あれだね。」

朝日が登り始め、薄黄色に染め上げられていく土手の上から、周りを見回したかと思えば、前方を指さし、僅かに目を細める。
視線の先を追いかければ、確かにそうだ。こちらに向かって走ってくる、中学生にしては高い身長と、黒い髪はまさしく武だ。梅さんは武にそんなに何度もあったことは無いだろうに、よく覚えていたものだ。
武が走り去ってしまう前にと、急いで土手を駆け下りる。『花鳥風月』と時雨金時がぶつかって、こつんと、軽く音が鳴った。

「あり?桜?何でここにいんだ?」

目の前に降ってきた私を見て、わかりやすく頭にはてなマークを浮かべる。少し額に滲んでいた汗を拭い、いつもの笑顔を向けてくる。

「あ、そういや聞いたぜ。桜もリング貰ったんだってな。」

「……あぁ。」

リボーンさんか、ツナ君か。どちらかが伝えたのだろう。家柄のことは黙っていてくれていると、大変助かるのだが。
いつも通りのお気楽さを見せている武の様子を見る限りでは、私が守護者だと言うことだけを知っているようだ。

「桜つえーから心強いな。」

そう言って笑う武は、先日の病院での時よりも、随分と晴れやかな様子で、まるで何か吹っ切れたようだ。

「それよりも武、ちょっとお前に用があるんだ。」

背負っていた竹刀袋を、武に放り投げる。予告も無かったが、武は上手いこと受け止め、その正体が時雨金時であることに、少しの衝撃を受けている。

「ん?なんで時雨金時……?」

「あぁ……まぁ、その、だな……。」

ありのままに伝えられず、口ごもってしまう。一体なんて言ったらいいんだろう。しかし、私の後ろで腕組みをしている祖母はそんなことお構い無しだ。

「桜、野球小僧、付いてきな。」

颯爽と踵を返し、どこかへ向かって歩みを進めていく梅さん。

「野球小僧って……俺のことか?」

可笑しそうに微笑を浮かべ、大人しく付いていく武。戸惑った様子はない。ほんと、胆力だけは人一倍ついてるな。というか、梅さんはもう少し、私の幼馴染としての逡巡や迷いというものを悟ってはくれないだろうか。今まで普通に中学生やって来たのに、突然手合わせしてくれ、だなんて、武にどう言えばいいんだよ。
まぁ、私のそんな様子を見て、助け舟を出したんだろうけど。
人に歩調を合わせるなんて言葉を知らず、さっさと歩いていってしまう梅さんに追い付くため、私は少し駆け足になった。

しばらくその背を追いかければ、到着したのはいつもの並盛の北山。しかし、常と違うのは、梅さんが立ち止まったのは、開けた所ではなく、並盛をせせら流れる川の前であること。

「ここでやりな。」

「え?」

突然の発言に、武は驚いているようで。確かに、普段からこんなふうに無理難題を言われ慣れていない彼からすれば、処理が追いつかないのは至極当然だ。

「ほら、さっさと入って。」

ぐいっと背を押され、川へ突き出される。突然のことに反応などできるはずもなく、武と二人仲良く、控えめな水音を立てて、川に足を突っ込んでしまった。まだまだ暑いとはいえ、今は早朝だ。水はなかなかに冷えている。
そろそろ腹を括るとしよう。『花鳥風月』を取り出し、薙刀袋を岸へ放り投げる。武もその様子を見て、時雨金時を取り出そうとするが、少し踏みとどまるかのように、梅の方へ振り向く。

「なぁ、桜のばーちゃん。やるのは、良いんだけど、ここじゃ俺が有利だぜ?」

確かに、時雨蒼燕流は水場と相性が良い。それは、剛おじさんとの手合わせで経験している。
だが、鬼教官はそんな事は既知だと、小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。

「わざとに決まってんだろう。ついこの間まで人の斬り方すら知らなかった小僧が、大きな口叩いてんじゃないよ。」

本当にこの人は口が悪い。それに、オブラートという言葉も知らない。

「言っとくが、桜の方がこの業界では長く生きてんだ。あんたは、これくらいのハンデをもらって丁度いいくらいさね。」

「業界……?」

武が聞きなれない言葉に首を傾げる。だから、この鬼教官は……。なるべく、そういったことはこの幼馴染にはバラして欲しく無いのだが。
……こいつには、いつまでもあの能天気でお気楽な笑顔を向けていてほしいから。

「あー、まぁ確かに桜ちっせー時から薙刀やってんもんなー。そりゃ俺より、キャリアは上だよな。」

そうとったか。そうとったのか。
予想外に間延びした声と表情に、川の中にずっこけるかと思った。そうでしたね、こいつは馬鹿でしたね。なんか、この感じ前にもあったな。
流石にあの梅さんも、武のそのお気楽な思考に、少しの哀れみを含んだ表情を見せる。そして、愚かなものを見る蔑んだ目を向けている。
しかし当の本人は全く気づいていないらしく、竹刀袋を放り投げ、時雨金時を軽く振っている。

「んじゃま、やるか。」

そう言って、時雨金時を構える姿に、少し恐怖心のようなものが浮かんできたが、大きく息を一つ吐き出すことで、それを追い出す。

「あぁ。」




腰をひとつ落とし、戦闘態勢に入る。武の纏う空気も、以前とは格段に違う。以前よりも、殺気、そして覇気を含んだそれは、ビリビリと肌を震わす。
先に仕掛けたのは、武。すねほどまで浸った川の抵抗などものともせず、瞬く間に距離を詰められる。単調な振り下ろしだが、そのスピードは今までで見た剣士の中でもトップクラスだ。
以前から感じていた、幼馴染の暗殺者としての高いポテンシャルに、ほんの少しの悪寒とそれをかき消す興奮が走った。
私も、梅さんのことを戦闘狂だなんて、罵れないな。武を前にして、こんなにも面白いと思っている自分がいる。
振り下ろされた刀を、薙刀に沿わせるようにして流す。まだ剣術を始めてそう日は経っていないはずなのに、攻撃を流されたことになんの戸惑いも感じていないようだ。
むしろ、そこから更に追撃を繰り出してくる。面白い、なかなかやれそうだ。こぼれ出てくる笑みを抑えることもせず、全力で彼に応えるために少し、薙刀を持つ手に力を込めた。

「貫薙流、樹の技壱の型『 細零絞除 金木犀 サイレイコウジ キンモクセイ 』。」

本来ならば、相手の攻撃を力尽くで無理矢理に弾き返し、隙を作る技だ。しかし、私の脳裏にはあの時の梅さんの言葉が浮かんできていた。
私は、私のスタイルを見つける。梅さんのように力強くは無い、母さんのように型に嵌って美しいものでも無い。私のスタイルは。

武の刀を力任せに打ち返すのではなく、衝撃と込められた力そのままに、流し落とすように刀を返す。すると、流石にこれは対応出来なかったのか、つんのめるように体勢を乱れさせる武。

「やはり……あんたはそうするだろうと思ってたよ。」

ポツリと梅さんの呟きが聞こえた。だって、主観的にも客観的にも考えて、これが一番身に馴染んでいたから。流しの技、誰に詳しく教えられたとか、そういう訳では無いが、私が戦闘の中で磨いてきたものだ。
元来、やはり男女の差というものは大きいもので。マフィアの世界とてそれは変わらず。基本的な身体構造が違うのだから、力尽くで抑え込まれるなんて、よくある事だ。だから私は、梅さんのようにそれに正面からぶち当たるのではなく、上手くかわしながら戦う事にした。
大きく水音をたてて、武がたたらを踏んでいる。隙ができた。狙うのはそこだ。距離を詰め、薙刀を横薙ぎに振るう。が、足場を考えていなかった。動きづらい。さっき武は水の中で、何であんなに素早く動けたんだ。
慣れない足場に、うまく踏み込めず、イメージの半分ほどしか威力が出ていないであろう薙刀を受け止められる。刃と刃が合わさった高い金属音が、水面を揺らした。

「やっべー、結構危なかった……かも。」

そう言いながらも、奴の唇は孤を描いている。随分と楽しそうだな。私も人のことは言えないが。
刃を合わせているのとは、反対側の薙刀の柄の部分で武の腿を狙う。が、それは空を切る。まるで獣のような反応速度だ、ほとんど本能で避けているのか。逃さない。この足場では、私は長期戦を強いられれば、いつかボロが出る。

「貫薙流、花の技肆の型『 濡れ水仙 ヌレスイセン 』。」

姿勢を水面に頬が触れるほど低く保ち、そこから腰だめに構えた薙刀を、斜め上へ切り払う。薙刀が川の水をすくいあげ、大きく水しぶきが上がる。
その瞬間、幼馴染が一層大きく、笑ったような気がした。

「馬鹿だねぇ。フィールドが相手のものなのに、さらにそれを助長するようなことをするなんて。」

梅さんの分析と叱咤に答えを返す暇もない。うなじにゾワゾワと鳥肌が立つ。何かする気か。薙刀はもう止まらない。このまま行けば、確実に武をとらえる。
が、なんだろう、全くもってそのヴィジョンは浮かんでこない。

「時雨蒼燕流」

飛沫の中、澄んだ声が鼓膜を揺らした。
私があげた飛沫が、更に大きくなる。恐らく、武がさらに水を巻き上げたのか。

「っ!」

その上げられた飛沫ごと切り上げるが、手ごたえはなし。一瞬の間を持って、水が重力に従って水面に戻る。
目の前の奴は、しぶきに身を隠すように屈み、刀を構えていた。

「守式二の型、逆巻く雨。……からのッ……」

早く体勢を立て直さないと。そう思って、薙刀を防御のために身体引きつけるが、武が放ったのは予想に反した普通の中段切り。
むしろ初手の時よりも、少しスピードが落ちていて、見極められないはずがない。しかし、目の前の奴の瞳は、何かを狙い付けるように鋭く光っている。
そのことに少々の違和感を感じるが、それを理解するところまでは思考は到達せず、一先ずその中段切りを防ごうと、薙刀を構えた、その時。
来るだろうと予想していた衝撃は来なかった。

「……?」

その違和感と少しの不審感に、一瞬体の力が抜けた。その刹那、ほんの一瞬前に来るだろうと予想していた衝撃が遅れてやってきた。不意をつかれ、薙刀に加えられた打撃に、得物を取り落としそうになる。
なんとか掴み直し、更なる追撃を防ぐため中段を薙ぎ払う。落ち着いたようにその攻撃も見極められ、後退する武。今、のは。何度か見たことがある。時雨蒼燕流、攻式五の型、五月雨。
攻撃中に刀を持ち替え、守のタイミングを狂わせる技。まんまと引っかかってしまった。

「んー、これで桜に勝てるかと思ったんだけどなー、そんなうまくは行かねーか。」

頬をかきながら、野球をしている時と何ら変わらない笑みを浮かべる。先ほどの鋭い視線は何処へやら。末恐ろしい奴だよ。

「当たり前だ。まだまだお前には負けねーっつーの。」

言質を取らせないように、笑みを貼り付けるが、正直少しやばかった。
だがそう思うと共に、脳髄には今までにないほどの高ぶりが訪れていた。武と刃を合わせている時は、刹那の水が滴る事すら、永劫とも取れるほどゆっくりに見える。それほどまでに感覚神経が鋭敏に尖っている。相手もそれは同じらしく、武の瞳は興奮にキラキラと光って見えた。




「二人共、そこまでだ。」

突然耳に響いた静止の声に、意識が急浮上する。今、私は、何も考えていなかった、のか。ただひたすらに武との命のやり取りを楽しんでいた。
長い間、薙刀を握りしめていたせいか、両手の関節が固まって、指が伸びきらない。上がった息と、額を落ちる水滴に混ざる汗。
向かいの幼馴染を窺えば、相手も同じようで、少し荒い息を整えながら、呆然としている。

「そろそろ夕飯の時間だ。帰るよ。」

ニヤリと笑ったかと思えば、それだけ告げて、さっさと山道を歩いていってしまう梅さん。確かに、空を見上げれば、もう宵闇が東から迫っていて、微かに星が瞬いていくのが見える。
時間の流れも忘れて、戦っていたのか。一度か二度、昼休憩を取らされた気がするが、それすらも記憶の片隅で薄れるほど、目の前の武との戦いに集中していたようだ。

「いつまで突っ立ってんだい、早くしな。」

梅さんの張り上げられた声に、意識を引き戻す。ザブザブと川から上がり、小走りに薙刀袋を拾いあげる。
私と同じように、濡れ鼠になっている幼馴染と並んで走りながら、梅さんの背を追いかける。

「楽しかったな!」

「あぁ。」

これを楽しかったと言えるお前は、かなりの変人だ。まぁ、それに肯定を示す私も、大概変人か。
確かに、今朝の憂鬱が嘘のように今は晴れやかだ。少しの倦怠感があるが、それ以上に、充実感が体を支配している。

「結局、桜からは一本も取れなかったし。やっぱ親父みたいにはいかねーな。」

「お前、その言い草だとおじさんから一本取ったことある、みたいな言い方じゃねーか。」

「ん?あるぜ?何本かな。」

軽くダウンがわりに走りながら、武がきょとりとした目をこちらに向ける。そんなさも当然みたいな……、私だって修行前とはいえ、まだ剛おじさんからちゃんと一本とったことねーぞ。
隣の生まれつき暗殺者の恐ろしさを、改めて実感したところで、とうとう日が落ち足元が悪くなった山道に視界を戻す。

「あれ?梅さん?」

私たちの少し前を、さっさと歩いていた祖母が、何故だか山道の途中でその歩みを止めているのに気付く。薄暗い山中で、梅さんのプラチナブロンドが星光を反射しているのが見える。
なんだってあんな所でとまってるんだ?
武と二人して顔を見合わせ、その背に近づけば、梅さんは誰かと会話しているようだ。

「なんだって?もう?!」

梅さんの驚愕している様子が、背中越しにすら伝わってくる。嫌な予感がする。とても。

「どーしたんだ?」

その様子すら全く気づいていない天然バカは、ひょっこりと梅さんの背から顔を覗かせる。

「お、やっぱ二人共一緒だったか。良かった。」

暗闇で顔が良く見えないが、その声は家光さん。なぜ家光さんがこんな所に。私も、武のように梅さんの背から顔を出して、問う。

「悪い知らせだ。奴らがもう日本に到着したらしい。」

「はっ?!」

「でかい声出すんじゃないよ。」

驚きのあまり、ついあげてしまった声が、凄く気に入らなかったのだろう。喧しそうに眉間にシワを寄せ、その大きな手で頭を鷲掴みにされる。
梅さん、シンプルに痛いんだけど。そのままリンゴのように、頭を握りつぶされそうで怖いんだけど。

「……すいません。」

声のボリュームを落とし、謝る。それでもなお、頭は離してくれないらしい。

「敵の先陣はレヴィ・ア・タン雷撃隊です。」

「ヴァリアーのとこの、傘小僧か。つまり、敵は雷のリングを取りに来たってことかい……。」

梅さんが忌々しそうに舌打ちをする。なんか、頭を掴まれた手に更に力が入ったような。あれ、これ私死ぬ?

「予定より早すぎるんじゃないかい?」

「恐らくは、XANXUSの超直感で気付かれたのではないかと……。」

そうか、やつも曲がりなりにも九代目の血を引くもの。勘が鋭くても不思議ではない。

「他の敵も来てんスか?」

表情から笑みを消し、真剣に問いかける武は、やはり一度負けたあのロン毛の剣士が気になるのだろう。負けず嫌いはほんと小さい頃から変わらない。

「あぁ。だが、今現在、目立った行動を取っているのは、レヴィだ。雷の守護者が危ない。今守護者の中で一番無防備で未熟なのは彼だからな。」

表情は窺えないが、家光さんの不安げな声色から、事態はかなり切羽詰まっていることが察せられる。その辺りで、やっと梅さんが頭を離してくれ、リンゴのように磨り潰されなかった事に胸をなでおろしながら、家光さんの話を聞く。

「俺は他の守護者にもコンタクトを取ってくる。二人共、彼の救援に向かってくれ。」

「はい……ってそう言えば……」

家光さんの指示に頷くが、よくよく考えてみれば、私はまだ雷の守護者が誰なのか、知らない。

「雷の守護者って、誰ッスか?」

同じことを思っていたようで、隣の幼馴染が、私のセリフの先を口に出す。武も知らないのか。じゃあ、あまり私たちの身近な人物じゃ無いってことかな。
いやでも、守護者は皆、ボスへの信頼が無いと選ばれないはず。

「あぁ、まだ伝えていなかったか。雷の守護者は……。」








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