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第12話 再会






「紅上舞、お前は第一部隊へ配属だ。そして神谷ユリ、お前は第二部隊へ配属となった。」

「ええ!!ユリと離……むぐっ!!」

ツバキ教官の言葉に何のためらいもなく口答えしようとする幼馴染の口を即座に塞ぐ。こいつはほんとに成長しない。配属部隊が離れたからって駄々をこねるとか、ガキかお前は。
大体、訓練の時からあんなに新型だなんだと騒がれていたのだ、二人揃って同じ部隊に配属されるわけが無いとは薄々思っていた。

「何か異論はあるか。」

社交辞令の様にツバキ教官がそう言うが、異論なんてあっても言えるわけがないと思う。まぁ、この馬鹿は言ってしまいそうだからこうして口を塞いでいるんだが。

「いえ、ありません。」

「むーっ!」

「よし。ならば早速、配属先の部隊員と顔合わせだ。これから世話になるだろうから、しっかり挨拶しておけ。紅上は第一ブリーフィングスペースに、神谷は第二ブリーフィングスペースへ行け。そこにそれぞれ待機している。場所はわかるな?」

未だもがもがとうるさい舞の後頭部を掴んで教官の問に頷かせ、その場を離れてから塞いでいた口を解放してやる。途端に大きく息を吸いこんでこちらを睨んでくる相棒。先程のエレベーターホールでの、野生の獣のようなぎらついた視線はどこへ行ったのやら。今はタダの子供だ。

「ユリと離れるのヤダ!」

「だからお前はガキかっての。」

「あいたっ!!」

むくれたように頬を膨らませる舞に、一発デコピンを落としてからため息をつく。

フェンリルは元々製薬会社だったと言われているが、その実この時代、神機使いたちを統括する部分は軍隊の要素が大変強い。下手に私情で異議申し立てなんてしてみれば、私達新兵の首ごとき小指一本で吹き飛ばせることだろう。

「あんまり、上からの命令に逆らうな。」

「……私にとっての命令する人はユリだけでいいもん……。」

「……お前なぁ……。」

一ヶ月前に出ていったあの二人と同じようなことを言う。あの二人も、出る直前、似たようなことをのたまっていた。俺達の大将はお前だけでいい、なんて。
孤児院での日々の中、何かと指揮を執るのが私だったからだろうか。家族たちに信頼されているということは、私にとっては何物にも変えがたく嬉しいことだし、光栄なことでもあるが、それは外の世界では全く通用しない事柄だ。

「ここでは私はただの新兵だし、そんな大きい権力は持ってねーよ。」

「…………。」

「……せめて、ツバキさんとか、お前がこれから配属になる隊の隊長の指示はちゃんと聞け。良いな?」

未だ納得しかねるようにむくれている舞だが、私の言葉にはコクリと頷いた。

「あと、手は出すなよ。なんか問題が起こった時は、先に手出した方が悪いんだからな。」

「……じゃあ、先に手出されたらやってもいいの?」

「………………相手が死なないようにはしろ。」

ここでダメだと言っても、きっと舞は手なんて出された日には頭に血が上って相手を半殺しにしてしまうに違いない。こいつはどうにも単細胞なのだ。自分の感情に素直というか、制御の仕方を知らないというか。
隊が分かれるとは言っても、割り当てられた部屋は隣同士であったし、これからも何かと目をつけて見張っておかなくては。こいつはすぐに除隊処分になりそうで怖い。

「ほら、早く行け。第一ブリーフィングスペースっつーと……、あそこだ。」

エントランスの階段を降りて、よろず屋さんが店を構えている所よりさらに向こうへとその背を押す。舞は不安げに一歩二歩踏み出した後、私の方を振り返った。

……こいつはほんとに、ガキだな。
振り返った舞の眉根は不憫な程に寄せられていて、今にも泣き出しそうだ。この人見知りはいつか治らないものか。
甘やかしてはいけないと常々思っているのだが、ついつい手を伸ばして、安心させるように何度かその黒髪を撫でてやる。もう、私はついて行ってはやれない。これから先はお前が一人で歩んでいかなければならない道だ。

「お前なら大丈夫だ、な?」

そう言って笑って見せれば、舞は未だ口を頑なに引き結んだままではあったが、浅く浅く頷いた。

「よし、行ってこい。」

「はーい……。」

まだ嫌そうに、だがさっきよりもしっかりとした足取りで歩んでいく白い背中を見送ってから、私も自分の行くべき方向へと足を向けた。

「えーと…………」

第二ブリーフィングスペースとは言われたものの、どうにもこうにもエントランスというものは人が多い。それらしい集団がたくさんいる。

第二ブリーフィングスペース…………は、ここ、か。人並みを避けながら歩いていくと、机とベンチが備え付けられた小さなスペースに行き着いた。七、八人程度なら並んで座る事が出来るだろうか、というそのスペースには幾人かの人物が既に待機していた。勿論、その右腕には赤い腕輪が。どうやら先輩方をたいへん待たせてしまっているようだ。
ぺこりと頭を下げながら、人並みの声にかき消されないよう少し声を張る。

「初めまして。本日付けで第二部隊に配属と……………え?」

下げた頭を再びあげて、今一度目の前の、私が配属されるであろう先である部隊の先輩方を見れば、なんだか見知った顔があるような。まさか、そんなどこぞの小説のようなことがあるものか。

しかし目の前の人物は、私がここ極東支部のアナグラへ来てからというもの、何度も無意識のうちに視線の片隅で探していた人のそれであった。

「お前さんは……」

先に気づいたのは、銀髪の彼の方だった。見覚えのある青いジャケット。あの時と全く変わらない、冷静な輝きを称える水色の瞳は今は驚きによって丸く見開かれている。恐らく、私も今の彼と似たような顔をしていると思うが。

世の中というものは狭い物だ。あの時の恩人たちと同じ職場に務めることになったかと思えば、まさかその上、配属された先の部隊にその人達本人が居るなんて。全くもって神様のいたずらとしか思えない。それにしては神様というものはあまりに暇なものなんだな。

銀髪の彼の様子に気づいたのか、その隣にいた闊達な雰囲気を纏った赤いジャッケットの男性もこちらを振り返る。そうして彼もまた、その爽やかな笑顔を驚愕の色へと染めていく。
そんな中、ただ一人、取り残された桃色の髪の女性だけが、困惑したようにきょときょとと瞬きを繰り返していた。

「……ブレンダンさん?に、タツミさん?……ですよね?」

あの時以来、頭の中に刻みつけられ忘れることのなかった名を呼ぶ。恩人の名を忘れるなんてそんな恩知らずなことがあってなるものか。

「ユリ……だったな。お前さん、ゴッドイーターになったのか……。」

まだ驚きの熱は冷めない様子で、呆けたように口を開くブレンダンさん。
私の名前、覚えていてくれていたのか。そんな小さなことに、少しの感慨のようなものを覚える。

「えぇ。その説は大変お世話になりました。」

深々と頭を下げ、改めて二人に礼を告げる。本当に、この二人には感謝してもしきれない。
もし、あの時、ブレンダンさんが割って入ってくれなければ、私と院長先生はきっともっと大怪我をしていただろうし、何より、孤児院は今も尚、あの詐欺師共の魔の手に苦しめられていただろう。

「あれ以来どうだ?院の方は。」

私の頭を上げさせながら、タツミさんが爽やかな笑顔を浮かべる。

「お陰様で。あれ以来変な輩が来ることも無いです。本当に助かりました。」

あの一件で、院にフェンリルの護送車が仰々しく停まって以来、やはり周囲の住民達の噂になってしまったようで。そのお陰様で、あの男達以外にもチラホラと院の周辺にいた詐欺師まがいの業者は、そそくさとそのナワバリを他のエリアへと移していった。
他のエリアの住民には申し訳ないところだが、私達だって懸命に生きるためだ。許して欲しい。

「新人が入ってくるとは聞いてたが、まさかそれがお前さんだとはな。世間というのは、随分狭いものだ。」

沁沁と考えいるように頷くブレンダンさん。私だって、まさか配属になったその先に恩人たちがいるなんて考えてもいなかった。
ブレンダンさんのその言葉に同意を示したところで、タツミさんがふと思い出したように、頓狂な声を上げた

「お、そうだ。もう一人の黒髪の子はどうしたんだ?」

「舞なら…………」

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