恋連鎖 | ナノ



その後、銀八先生と高杉先生は諸々言い合いをした後に、なんやかんやで保健室から出てきた。
先に先生を待っていたあたしは、本当に疲れ果てて不機嫌そうな銀八先生を見て、高杉先生と仲が良いんだか悪いのだかよく分からなくなった。
ここまで言い合いができるんだし、お互いの呼び方からも、昔ながらの絆のようなものが感じ取れたからだろう。思わずクスッと笑って、そのまま先生の後をついていった。

「大体結ちゃんもすぐに帰ってこねェと…って言っても、俺が遣いに行かせたんだっけか」

「そ、そうですね…」

「原因は俺にもあるわけね。…はー…アイツに合わせる予定じゃなかったんだけどなぁ…急いでたからよぉ…」
「大丈夫ですよ、この通り平気だったんですし」

なだめようとしたら「そういうわけじゃねェんだ!!」と真面目口調、表情の銀八先生からの返事が返ってきた。
ビクッと跳ねると、先生らしい言葉で言った。

「今日の授業は坂本だったからまだ良かったけどよ、もし服部とか月詠とかだったらシャレにならなかったんだからな」
「…はい」

しゅん、としょげる。確かに坂本先生なら誰がいようがいまいがマイペースに授業を始めて、グダグダな授業をするだろう。
けれど真面目系先生は本当に厳しい。特に体育だったらどうなっていたか…。
松平先生とはまだまともに接した事が無いから分からないけれど、近藤さんが妙にビビっていたのを憶えているからあまり良い印象は無い。

それはいいとしておいて、あたしは本当に気分を落とした。

先生はこんなにも心配してくれていた。その事には多少なりとも嬉しさがあるのだけれども、無防備にいた事はあたしの責任だ。
高杉先生は…そう言う事、しない人だとは思うんだけどなぁ…なんて、たった数十分一緒にいただけのあたしが言うのもアレなのだが、確かに優しい人だと感じていたのだ。
だから安心しきっていたため、本当に見知らぬ男性と二人っきりになったらこうはならない。そう思っているのだけれども…

この際、言い訳なんてただの生意気な子供の言い分に過ぎないのだ。

だから「ごめんなさい。もうしません」としか言葉にできない。



ぽん。と頭の上に先生の手が乗った。

その大きさと温かさに心が跳ねる。


「だから謝んなくていいって」
「でも…」
「いい子すぎだって。もう俺が絶対に二人っきりにしてやんねーよ」
「はは…怪我しないように気をつけます」
「全くだ。――――――こんな可愛い子、アイツには勿体ねェからな…」

「…え?」

髪の毛を撫でるように滑らせた手は、そのままあたしの首に回って、優しく後頭部を抑えた。
そしてそのまま


















場所は渡り廊下。中庭が見える窓は全開で、桜の花びらが校舎に入り込んで大変だと想っていた。
でもそんな事は、どうでもいいのだ。
形のよい演出となって、あたしの網膜に焼きつく。

そこには、桃色の風と、目の前には視界いっぱいの先生の顔があるだけで




「……」



「……悪ィ」


顔を赤くした先生はそのまま、気まずそうに…いや、照れ隠し?に、先に歩いて行ってしまった。


残るのは、あたしの唇の熱だけだった。




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