恋連鎖 | ナノ
1時間目は学活で、新学年になった今、新たに係や委員会を決めなくてはならない。
3年だから受験も視野に入れてその役職は後輩に任せればいいのでは?と思ったけれども、そうもいかないみたいだ。
近藤さんたちは風紀委員に、桂君は学級委員に立候補して、次々と決まっていく。
妙ちゃんや神楽ちゃんは「委員会はやる気のある人がやるべきだわ」と言って係の方に回っている。なーるほど、なるほどねぇ…やる気は有る無しどちらかと問われればどちらでもない。
だからあたしは迷っているなう。
「別に今決めなくてもいいみたいですよ」
突然、ぬっと自分に影ができたと思ったら、上からにっこりと…恐ろしい形相で笑った屁怒呂さんがあたしを覗き込んでいた。
ビクッと肩を震わせ振り返り、びびりつつも「そうなんだ、ありがとう…」と恐る恐る返事をする。
彼はまたニコッと笑うと、生物係の所に名前を書いて席に着いた。ふふ、恐るべきクラス3Z…!
「で、結はどうするアルか?係と委員会掛け持ちもオッケーアル」
「僕たちのクラスは定員数が決まってないんだ。後で委員会に入りたくなったら放課後に頼めばいいし…」
「うーん…どうしよう」
そういえば、
と、黒板の方にもう一度目を向ける。銀八先生らしい白い文字がずらっと並ぶが、そこに「国語係」の文字が無い事に違和感を持つ。
「ねえ妙ちゃん」
「なぁに?」
「一個役職が無いんだけど、国語係…」
書き忘れかな?って聞いてみたら妙ちゃんがふふっと綺麗に笑うと
「何故かくじ引き式なのよー」
と困ったように言った。
「運が悪いと、委員会入って係やってついでに国語係として先生のパシりに使われるネ」
「パシリなんだ」
思わず苦笑。
ざわつく教室でまだ決められないあたし。大体の人たちが希望の役職の欄に名前を描き終わった頃、先生が立ちあがった。そういえばずっとそこでジャンプを読んでいたのだ。
手には赤い箱。そのてっぺんはまるく切り取られている。さっき妙ちゃんが言っていたくじ引き箱だ。
―――国語係……
密かに、先生に恋心を抱いてるあたしとしては、なんともおいしい立場である。
よし、当たらなかったらでも遅くは無いし、正直なんの係委員会でもいいからかけてみよう。うん。
「ってことで、恒例のくじ引きでーす」
「うげ、始まりやがった」
「あ、沖田君は無条件でなしな。俺もうお前使うのやだ、ぜってー仕返ししてくるんだもん」
そんな過去があったのか。
「ついでにさっちゃんもなし」
「なんでなの!!? 私はあんなガキンちょなんかと違って真面目に働いたじゃない!何がいけないのよ、先生は私にこれ以上何を求めるのよ!!」
「その反応だバーロー。お前を使う気になんざさらさら起きねェわ。だって勝手にやっちゃうじゃん」
「え…先生、もしかして私の事、そんなに想ってくれて……」
そしてまた妙な勘違いが起こる。
とりあえず、先生の権限で二人は除外されてしまった。
くじ引きは先生が歩き回ってくじを引いてもらうから、皆は席につく。
すると後ろの沖田君が「当たったら×ゲームみたいなもんですねィ」なんて呟くもんだから、そんなに面倒くさかったのか、と心の中で突っ込む。
「そこうるさい。―――あーでもやっぱ女子がいいなー。先生の秘書みたいなもんだしなー響きがいいよなー…」
「先生、セクハラはいけませんよ」
妙ちゃんが少し殺意のこもった笑顔で言うと、先生はそれに気圧されてか、「ハイ、すみません」とすぐに謝った。
そして誰も呼んでいないのにさっちゃんさんは「秘書!? なにそれ興奮するじゃないのぉぉ!!」って、何を想像してかキャーキャー飛び跳ねている。おおう強烈。
なんとかクラスを静かにさせて、先生はくじ引きを持って歩き始めた。
あ、あたしの番になる前に当たっちゃったら終わりか。
…真ん中くらいの位置だから微妙な心境だ。確率も半々って所だろう。
先生が来た。近くなる。白衣の甘い匂いが心地いい。いやいや、ドキドキしてる場合じゃない。後が詰まってしまうからさっさとくじ引きを引かないと。
―――あ
「あ」
後ろから除きこんできた沖田君と言葉が重なった。
あたしの手元には、先っちょに赤い色がついた棒。
「じゃあ結ちゃんよろしく」
頭上で銀八先生は不敵な笑みを浮かべて言うのだ。嬉しいような、本当に当たった事による驚きのせいなのかどもって「は、はい」と引き攣った表情で答えたところは反省したい!
先生はさっさと皆からくじを回収して片づけてしまった。
皆よっぽどなりたくなかったのか、よかったーと嬉しそうに呟いている。どれだけ過酷なんですか…!
――――でも、嬉しい、かも
やっぱり、恋心は隠せない。