恋連鎖 | ナノ


個性豊かなクラス。


よく、合唱コンクールなどでクラス紹介を手短に終えるとき、この言葉が使われるが、そんなの甘い。本当に個性豊かなクラスというのは、この教室の中の事を指すのであって、断じてごく普通のクラスの事を言うのではない事を、心得てほしい。


あたしは…いわゆる“自分探し”に出てきて、母の旧友の旧友である理事長のおかげで編入してきた。
銀魂高校3年Z組。辺鄙な場所に変なクラス。まさに、変なクラス。





あたしは、そんなクラスの担任に、ついこの前、恋をしたのである。






「やっぱり結のベン・トーは格別アル」
「神楽ちゃん、それ別作品」

見事、編入して3日も経たずにあたしはクラスの輪の中に入り込む事ができた。
それは目の前で幸せそうに食す女の子――神楽ちゃんのおかげであるというのもまた一理あり、大きいのだ。

「そういや結」
「はい」
「なんか昨日からあのドSの事、避けてないアルか?」

そして次に、あたしの後ろの席に座る男の子――沖田総悟君。彼もまた、あたしに良くしてくれている。………本当に、良くしてくれているのだ。まさに、あたしに惚れているかのように、否、あたしは彼に、想いを寄せられている。

以上の事から分かるように、あたしは新学期早々、凄まじい立場にいるのである。

許されざる先生と生徒の恋愛に付け加えてイケメン君からの告白、あたしの友達はイケメン君を快く思わず、あたしの気持ちは先生にあって。

とにかく複雑なのである。

「別にそうでもないというか……いや、そう、っていうか……」

しどろもどろに答えれば

「…!!!! ま、まさか…アイツに何かされたアルか…!?」
「え」

「アイツが、結の事傷つけたから、だから…だから結は心に深い傷を負ってアイツに近づけないアル。そうネ、絶対そうネ!!」

違う、

のは確かなのだが、その言葉が出る前に彼女は軽々と空いた机を持ちあげては騒がしい教室の中とびきり大きな声を張り上げて

「覚悟しろォォォオオオオこんのドSがァァアアアアアアアアア!!!」

次の瞬間、机は水平に飛んでいき…ドゴォォッと音を立てて壁にめり込んだ。


「おいおい待てよ。俺のマヨネーズが良い感じに形を保ってんだ。邪魔すんじゃねェぞ」

すると煙の中から声が聞こえる。
信じられずに目を凝らしてみれば、そこには冷静沈着に…しかし手元には世にも奇妙な黄色い物体が渦を巻いて芸術作品のようにそこにあった。

―――あんな騒ぎの中、あんなに冷静に…!!!

マヨラー土方君はまさにマヨネーズに魂を込めて弁当箱を芸術作品に仕上げている途中だ。彼にしか理解できない、美しさを極めたマヨネーズは猛々しくそこに存在感を増した。

「よくもそんな犬の餌を重宝するんですねェ。おちおち気楽に食事もできやしねーなァ、アンタのせいで……んで、そこの怪力女も含めて」

つぎに埃の中姿を現したのが、行儀悪く足を机の上に組みながら、彼の中の怒りを表すように箸をカチカチと鳴らす沖田君の姿。

彼の視線の先には「何…!」と、シリアスな戦闘シーンのように言葉をもらし、うろたえる神楽ちゃんがいる。
間に挟まれたあたしはもうどうしようもないので呆気にとられながら二人を見た。


「やるアルか」
「お望みなら受けてたちやすぜィ」


あたかも戦場のようになった教室のど真ん中に、神楽ちゃんと沖田君はどこからともなく吹いてくる風に髪が靡いて、静かな沈黙の後、ダッと走り出し掴みあい、殴り合い、蹴り合い、舞い散る埃と机の木の破片と、カーテンの靡き具合が上手い感じに演出している。
これは、本気だ…!


ただの昼休みなのに。


「うおおおおおらァァァアアアアア」
「死ねェェエエエエチャイナァァァアア」

死ねとか言っちゃいけません。

「結局、結に何したアル!!!」
「あ゛ぁあ?」
「大体私馬鹿じゃないネ、お前になんの用件もなくつっかかったりしないヨ」


ズザザアッと急停止した神楽ちゃんが口元の血をぬぐいながら言う。

「答えるアル」

「一昨日結と一緒に帰っただけでィ」

「問題大アリじゃああああああああああああああ」


いやいや、どこが問題だ!!

そうあたしが突っ込む前に神楽ちゃんは隣の机を掴んで頭上まで持ち上げた。
表情は歯を食いしばって頑張っているようなのだけれども、見る限りあっさりと持ち上げてしまっていてなんだか鳥肌が立つ。
ぐぐぐっと音がなる机が、次にどうなるか…


「ふんぬぅぅうう!!!」


ブンっと投げられたそれは




「お前ら昼休みだからって迷惑だろ。やるなら外に行け」




土方君が、足で、足で!机を蹴り飛ばした後に二人の元へ歩いていけば頭をがっちりつかんでぐりぐりぐりと押した。
まるで子供を扱うお兄さんのような彼の対応にきゅーんとときめいて(これは恋愛とかそういうのではなくて)しまった。

「何すんでィ。離せ、マヨネーズ菌がうつらァ」
「きもっきもっ」
「うつるかァァァァ!大体お前らが喧嘩すると学校一個あっても足りねェんだよ。もう3年目だろうが、頭にいれとけ。
大体総悟、お前は特に今年も風紀委員やるんだろーが。風紀委員が学校壊してどうする」
「俺にとっちゃ学校なんて枠、収まりきれねェんでさァ…」
「だからといって壊していいわけじゃねェからな」


すっかり静まったのは良いのだけれども、怒涛の展開に他の人たちは日常茶飯事であるように平常通り過ごしてるし、あたしは呆気にとられたまま口の中におかずを運ぶ作業をしながら3人の様子を眺めてるだけだし。

…っていうか何だかんだ言って仲いいじゃん二人共………って言いたくなるんだけど、なんか怒られそうだから、沖田君と土方君にそう言ったことは無い。







例えばどのような?



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