SS1 | ナノ

Non Title


―― サージャント・ハーネマンが怪我をしたらしい。
―― 意識不明の状態で医務室に運ばれたらしい。
その日の演習を終え、自室に戻ろうとした時に聞こえてきた会話に青年は己が耳を疑った。

「サージャント!!」
勢いよく開かれた扉に、室内にいた二人がそちらを振り返り、
入って来た人物へ非難の目を向ける。
「クーパー、ここは医務室だ。もう少し静かに入ってこい。」
中にいた男の一人、テリーが呆れたように入って来た青年、クーパーに注意を促す。
だがその口調には、いつもの様な力強さを感じる事が出来ない。
「あ…すみません…、その、サージャント・ハーネマンが怪我って聞いて…」
注意されたことに一先ずの返事はするものの、クーパーの意識は別の所に向いている。
医務室内の一画、カーテンが閉じられ半個室化した空間の内部。
そこに目的の人物がいる事は、状況から察するに明らかだ。
「近くにいた兵士の話では、流れてきたグレネードの爆発で足場が崩れたそうだ。
突然の出来事で誰も対処できなかったらしい。」
「しかもミッヒったら、無意識にカービンを庇ったらしくて。ほんっと…あの馬鹿…
銃より自分の頭の方が大事に決まってるのに…!」
クーパーの問いかけに、テリーとターナーがそれぞれ答える。
どうやら演習中の事故でハーネマンが立っていた足場が崩れ落ちたということ、
その際に持っていたカービンを両手で庇った為に
自分の体は無防備に叩きつけられたということ、
落ち方と打ち所が悪かったらしく、意識不明で運ばれてきたということがわかった。
銃器フェチの彼らしいといえば彼らしいが、この状況ではそんなことを言える余裕は誰にもない。

「あらクーパー、貴方も来たのね。」
と、個室化した空間が開け放たれ、カーテンの内側からブロンドの美女…
ナースのキャサリンが姿を現した。その場にいた全員が彼女に振り返る。
「あ、ええとその、サージャントは…?」
「肩と足の怪我が少し…でも、それ以外は問題ないわ。
目が覚めてからの検査は必要だけど、多分大丈夫よ。」
いてもたってもいられない、という様子の青年に柔らかな笑顔で答える。
彼女の答えに皆一様に胸を撫で下ろした。
「良かったぁ…本当、ミッヒったら…起きたらただじゃおかないんだから…!」
「おいおいターナー。まあ、とりあえず安心だな。キャサリン、君も休憩すると良い。」
「ありがとうございます。でも、ハーネマンの様子見もあるので…」
そんなやりとりにクーパーが口をはさんだ。
「それなら、俺が。」

カーテンに仕切られた空間の中、クーパーはベッドの住人を見つめていた。
心配はないと言われたものの、シーツから覗く肩と頭の包帯は痛々しく、
病的なまでに色白な彼の素肌とが相俟って、青年の心に不安を掻き立てた。


――早くあれから逃げなくては。早く。
腕に何かを抱え、果てしない階段を必死に上る。
後ろから深い闇が周囲を飲み込みながら迫ってきていた。
あれに飲み込まれれば存在が無くなってしまう。何故か解らないが、そう感じた。
階段がどこまで続いているかも解らない。が、これを登り切れば逃げられる。
そう信じて次の階段に足を掛けた。
「…っ!!?」
違和感。そしてそのまま足を掛けた階段をきっかけに、今まで登って来た階段が崩れ始めた。
とっさに次の階段に移動するも、その段も乗った瞬間に崩れ始める。
その後も足を掛けた階段が次々に崩れていき、
また闇は先ほどよりもスピードを速めて迫ってきている。
――危険だ!早く、急がなくては…!
と、焦り過ぎたのか、足がもつれて体勢が崩れてしまった。
何かを抱いていた腕が緩み、その隙間からこぼれ落ちていく。
――しまっ…!!!
気づいた時にはもう遅い。それは迫っていた闇に飲み込まれてしまった。
と、踏んでいた足場も限界を超え、崩れ落ちる。
そのまま自身も眼前の闇に飲み込まれ―――

next



back to main

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -