「案外、弱ったらしいもんなんだね? 切磋琢磨も」
横たわっていたところを、前髪を掴んで無理矢理起き上がらせられる。そのまま剣の柄で頭を殴打された。反動で身体が振られる。
切磋琢磨バーサス*+αの三人。
この勝負は、はなっから見えていた。余裕の余裕で、切磋琢磨の完敗だった。
人数の差も否めない。一対三という人数差は、普通に考えて反則的だ。しかし、それだけではないのだ。彼、彼らの勝敗を二分したのはそれだけではない。
「大体、解せないぜ」
金糸雀が言う。
「高々μtoの実戦奴隷ごときが*+αへ異動だなんて。解せないっつーか、ムカつく話なんだぜ」
「μtoと*+αは、奴隷活用の根本からして違うでござる」
「μtoから*+αにだなんて、ナメてるとしか思えないよ」
何様のつもりだい、と啄木鳥は切磋琢磨を嘲笑した。
琢磨様だい、と返したいが、口も身体も動かない。手足からも胴体からも、溢れんばかりに血が出てきている。彼でなければ意識不明の重傷だった。
第一。
(俺は別に、*+αに異動したかったわけじゃないし、だから逃げてきたわけだし)
(だから今こうやってキレられる意味がわかんないんだけどな)
切磋琢磨は心中で溜息をついて、ぼーっとする意識を律した。
「……………」
切磋琢磨は、死ぬ。
このままだと。
百パーセントの確率で。
この三人に殺されて、死ぬ。
なんとかしたかった。
なんとか逃げ出したかった。
逃げ出して、生き延びて、これからの人生も歩んでいきたかった。
だけど。
――――もう、家族はいない。
昔の家族同様、皆が皆殺されてしまった。
要害堅固も。
愛新覚羅祥玲も。
みんな、みんな、殺された。
「………………ッ」
切磋琢磨は拳を握る。
拳の中には、なにも無い。
何一つない。
溢れんばかりの家族さえ無い。
何も守れず死んでいく。
要害堅固のように、家族を守れずに死んでいく。
それが酷く悔しかった。
たまらなく悔しかった。
歯痒い。
やる瀬ない。
泣き出したい。
悔しくて悔しくて、身体中が沸騰しだしそうだった。
こんなことでは、死ねない。
先に逝った家族に、合わせる顔が無い。
だけど。
もしこのまま生き延びてどうするのだろうか。家族はいない、独りぼっちだ。もう、帰って“行ってらっしゃい”や“お帰りなさい”を言ってくれる人間さえいなければ、住む家すらない。
――本当に、生きなきゃ、いけないのだろうか?
このまま一人だとわかっているのに。
それでも、たった一人で生きなきゃいけないのだろうか。
……――――なんで?
「やめてくださいッ!」
そのとき、甲高い幼声が鼓膜を揺さぶった。
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