切磋琢磨の過去は、とある小数部族の部族長の息子、という立ち位置から始まる。
その部族は、強靭な脚力を持つと言われた屈強な戦闘部族。あらゆる蹴り技を融合させた独自の戦闘技術を有する――屈強で列強な部族だった。
部族同士の抗争が絶えないさる国で、ある日、その部族は絶対の地位を得る。

――その国の、王族へと上り詰めたのだ。

当然。部族長は国王へと相成り、そして、その息子である切磋琢磨は自然な流れで、王子という立場に相成った。
彼が一国の王子だなんて、と笑う人だっているかもしれない。しかし、これは純然たる事実であり、史実だった。
彼の父はおおらかで、治世も行き届き、それなりに安定した国になっていく。他の部族も、それに満足していた。

しかし。

平和なある日。
他の部族の一人が言った。


いいのか、それで。
王族へとのし上がったあの屈強な一族は、その為に他の民族を殺していったというのに。
生温い生活に身を窶し、滅びていった貴べき先祖に恥ずかしくはないのか。


初めは、その言葉だった。
その言葉だけだった。
段々と王族に不満を抱く微々たる民衆もいたが、やはり治世は変わらない。
しかし。
次々と事件が続いていく。
国開発の為の、国民を無視した土地占領疑惑。
王族の汚職疑惑。
奴隷出産国化疑惑。
不満が。
立体的に浮かび上がってくる。
国全土に不満が募っていく。
そして、極めつけは。

王族による、少年射殺事件。

それはただの誤報だった。王族には身に覚えのない話だった。
しかし、不満の高まる国民からしてみれば、“火種”には十分だった。
続いた治世は一瞬にして戦禍へと変わる。
王族を殺せ。
一人残らず根絶やしにしろ。
そう国民間の意志は統一され、ついには反乱が起こった。

劇的だった。

いくら屈強な戦闘部族とはいえ、兵力差は明らかだ。切磋琢磨のいた部族は次々と殺されていく。
しかし。
他の部族も、一度は幸福を得られた治世を慮り、子供だけは生かすことに決める。まだ十つにも満たない切磋琢磨と、彼の生まれたばかりの妹は、その生命を許され、奴隷として国から追放された。



これが。
あの《ギルド》のボス。
おおらかで気丈で明るい彼の、切磋琢磨の過去だった。



則ち。
人生において二回目だった。
彼にとって、最も苦渋な経験。

自分の家族が、皆無惨にも殺されていったという、経験は。


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