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啄木鳥。元戦闘奴。
ディスパラノイア街で死闘を繰り広げ、なんやかんやであたしたちと似通った道を歩むことになった妖しい笑みを浮かべる少年。今は身につけていないが、嘴のようなその剣で何人もの人間を、切磋琢磨さえも殺した、魚と同じ永世トップ。
そんな彼とここで再会するとは――賭博場《錯乱カジノ》の、バイキング会場で。


 
「久しぶり…………鳥」
「Wonderful! またこうして先輩たちと会えるだなんて夢にも見ていなかったな。次はこの街まで逃げてきたってわけかい?」
「そうだけど。あんたも?」
「まあ、そんなところさ」


啄木鳥は肩を竦める。魚は嫌そうな顔で彼を見つめていた。魚はあくまで嫌そうで、啄木鳥に気を許していないことがありありと伺える。《ギルド》を潰滅させ、切磋琢磨を殺し、あたしまで人質に取り、そして最後にはいつか自分を殺すとまで言った相手だ。好意的な態度を取れというほうが無理な話だろう。
萵苣は独特な感性をしているせいか、それほど啄木鳥を邪険にしていないようだった。勿論次期永世トップだったその実力を知っているはずだし、彼が人殺しをしてきたのも重々理解している。けれど見た限りでは、萵苣は啄木鳥を怖がるどころか、魚と同じように扱っているフシがある。魚も元永世トップであり“そう”だったように、啄木鳥も“そう”なのだからあまり気にしないでいいだろう――理由はわかるけど理解は出来ない。あたしは萵苣の感性に首を捻るばかりだわ。ばきぼき。折れてますやーん。


『誰かを怖がったり誰かを憎んだり、そういうマイナスの感情は自分の価値を下げるだけだわ。けれどその感情も大事だと言うことを知りなさい。でなければただの無知だもの。無知が美しいのは子供までよ』


わかっているわ、母親。
正直あたしは――啄木鳥が苦手だった。苦手というよりも――人質として彼に拘束されたことが大きいのかもしれない――少なからずの恐怖を、彼に抱いている。またいつか、あの嘴のような剣を向けられるのかもしれない、そう思うだけで心臓は恐怖に打ち震えた。啄木鳥の彩度の高い真っ青な目は綺麗というよりは畏怖の対象だ、見ていられないし、そして何故か《ギルド》の血の海を思い出してしまう、悲鳴を――あげたくなってしまうのだ。そして多分ではあるけれど、それを啄木鳥は気付いている。気付いて愉快そうに、あたしに笑みを浮かべてくる。あたしはぎゅっと拳を握る。余裕の笑みは、崩さない。


「やあ、ミス・硝子。さっき見たときは本当に驚いたよ」
「ええ、あたしもよ。一瞬人違いかと思ったわ……」出来れば人違いでいてほしかった。「前にお会いしたときよりも随分一般的な服を着ているようだけど。一体どうしたの?」


ああ、と彼は自分のケープコートを撫でる。その動作すらあたしにとっては針のようだった。彼の一挙手一投足に緊張してしまう。あたしより年下のはずなのに、その蹂躙してくるような高圧的なオーラがどうも息苦しかった。


「これかい?」
「基本的なデザインはあまり変わっていないようだけど、少なくとも軍服ではなくなったじゃない」
「だろう? ちなみに先輩。もしかしてアンタはまだあのダッサい軍服を着てるのかい?」
「あれが一番落ち着くんだよ」
「身長のせいで普通の服じゃ丈が合わないとかじゃなくて?」
「捻り潰されたいのか」
「冗談さ」


肩を竦める啄木鳥は優美な態度で続ける。


「このカジノで一山当てただけ。幾分かお金に余裕があるのさ」
「あら」
「へえ」
「ここのカジノはひどく温いね…………いや、“狡賢い手”を使ってはくるけど、少なくとも俺や先輩の敵じゃないだろうね」


啄木鳥の物言いから推測するに、少なくとも《錯乱カジノ》のイカサマテーブルには当たったことがあるようだ。もしそこで一山当てたならそれは本当にすごいことだわ。啄木鳥や魚の敵じゃない――というのはどういうことかはよくわからないけれど、戦奴特有の勝負勘でもあるのかしら。あとは単に素早いイカサマが行えるか。



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