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灰色をそのまま伸ばしたようなのっぺりとした建物。窓はあるにしろガラスや格子は見られず、アフリカの家屋を彷彿とさせていた。そこに程よく巻き付かれた深緑の蔦は、日差しを遮るには持って来いだろう。もう廃墟と化したその建物の階段を、不慣れに上っていく二人。

階段を上りきると、長い廊下に出る。そのまま一番手前の部屋の壁にもたれ掛かった。


その部屋には、美術の集大成が横たわっていた。


女だ。それもまだハイティーンほどの。詳細の歳はわからないが、それほどにまでは成熟してはいないだろう。

ひらきゆく花のように繊細な、艶のある黒髪。伏せられた睫毛は長く、その眠る瞼に陰を落としている。マシュマロのように柔らかそうな肌は、まるで東洋の陶磁器のように白い。潤いを残す桃色の唇は、見ているだけで呑みこまれそうなほど妖艶だ。胸元が大胆に開いたシャツ一枚の姿は、崩壊しそうな色気よりも健康的な無垢さが前面に出ている。露出した太股にかけての脚は細く長くたおやかだった。

画家を百人呼べば、例えそれが世界の終末であっても彼女を描くことに躊躇わないような、そんな絶世の美女が、古いベッドの上で眠っていた。

そんな無防備な姿を前にして、壁にもたれ掛かる青年二人は、あろうことか。
――げんなりとため息をついた。

ツナギの男はコンコンと、壁を叩く。そしてそのまま呆れた声音で気だるげに言う。


「おい起きろ。そろそろ出るぞ」


その言葉が言い終わらないうちに彼女は目をゆっくりと開く。息をするのも忘れそうなほど、美しく潤んだ瞳だった。視線を彼らに向けて、蕩けてしまいそうなほど綺麗な笑顔を彼らに向ける。


「おはよう。今日もとってもいい朝ね」
「おそよう。正しくは昼だお寝坊さん」
「あら、そうなの。なら、今日はとってもいい昼ね。誰かに挨拶出来るのは、本当に素敵だわ」


そして彼女はゆっくりとベッドから脚を下ろす。剥き出しの脚線はゾッとする程に美しく、ミルクのように滑らかな肌にシーツが擦れる音は艶やかだった。
ベッドで脚を組む彼女に、ツナギの青年は言う。


「………なあ、もう絶対そうだと思うけどさ。百パーセントの確率を持ってそうだと言えるけどさ。一応聞いといてやるよ」
「なあに?」
「“わざと”だろ?」
「あら。やっぱり気付かれちゃったわねー」


ペロリと悪戯っぽく舌を出した。


「どうだったー? 今回はかなり誘惑的だったでしょう。むらっときた?」
「こねぇよ。打算だと分かるやつにむらっとはこねぇよ」
「やぁだわー、目の前でこんな美女がこんなカッコでいるのに。ギラッギラな目であたしを見つめてくれていいのよ?」
「ギラッギラな目でお前を斬りたそうにしてる奴なら隣にいるぞ」
「ああ、カッターシャツは少し擦り切れてた方が好みなのね」
「いい加減に黙れば? このスケベ女」


ベッドから立ち上がる彼女を、軍服姿の青年が睨む。



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