「俺は本当はチキチキバンバンみてぇな車を作りたかったんだよ。チキチキバンバン。ありゃポッツ博士の傑作だろ。何だよ、空飛んで海渡って? いつか宇宙にすら行けるっつー可能性を見事に示唆してやがる。感涙で涙がちょちょ切れそうだ。でもどうだ? この車。見た目はボロいし中身もボロいし、走った時のマフラーの音が“ぺぺぺぺ”って致命的だろ。最近になっちゃ“ちゃかぽっく”とか、車にあるまじき音を出してみせやがった。どういうことだ。俺の設計ミスか? チキチキバンバンは叶わぬ夢か? 誰もポッツ博士には敵わないってことか?」


ホライズンブルーの酷く退廃的な車のトランクに、せっせと荷物を詰め込む青年。
どう転がってもそうはならないだろうと、呆れを越して馬鹿馬鹿しさすら生まれそうな、艶っぽい緑の目と髪。疲れの色を伺わせる表情のベースは、精悍な顔立ちと見受けられる。白いジェッソやオイルに塗れたツナギを着ていて、覗く腕は筋肉張りながら引き締まっていた。

その青年をチラと一瞥した、車の上で寝転ぶ青年。
青年と判断すべきか少年と判断すべきか、彼の上背はさほど無く、また女の子と見紛うほどに小柄だった。癖のある黒髪に眠そうに少し眉間に皺を寄せた瞳で、中性的な顔立ちをしている。まるで戦争兵のようなオリーブ色の詰め襟の軍服にチョッキ、首に巻かれた白い布。耳のたれがついたヘルメットにゴーグル。脇に置かれた二本の刀がそれを際立たせる、どこか軍兵を彷彿とさせる格好だった。


「……あのさ、それ何度目だと思ってんの? 俺もそろそろ疲れてくるよ。俺の耳はタコまみれだ」
「そのタコも食えるんならいいんだけどな」
「全くだね。まあ耳を食べられるだなんて考えただけで吐きそうだけど」


フッと勢いを付けて、上半身を起こす軍服の青年。左右を確認したあと、面倒くさげに呟く。


「スケベ女は?」
「んー、あいつ?」


ツナギの青年は苦笑する。


「多分まだ寝てんじゃねえの?」
「嘘でしょ、もう昼前なのに」
「あいつのルーズは今に始まったことじゃないだろ。もう慣れた」
「嫌なもんに慣れちゃったみたいだね」
「そりゃ慣れるだろ、毎日あの調子なんだ」


肩を竦めて腕を広げた。
そしてトランクを丁寧な手つきで閉める。腕を空に上げ、伸びをしたあと「さてと」と呟いた。


「未だ眠る、困った嬢さんを起こしに行くか」


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