“僕は愛別離苦”

大人になっても。
しわくちゃになっても。
ずっとずっと二人でいて、手を繋いでいてほしいような、そんな二人だった。

“君たちを、助けにきた”

ただ二人は人を殺してしまった。もう戻れない。普通には生きていけない。それは彼が一番よく知っている。
だから、せめて、助けられなかった罪滅ぼしのため、面倒をみることにした。

“君たちの名前を、聞いてもいいかな?”

二人は、返す。
血まみれになった唇で。
やっと安心できたのだろう、震えに震えた、幼い声で。

“ハニー・フルボトル”
“シュガー・フルボトル”



――――これが、《愛別離苦》という男の、元戦奴の話。
本名を――ビター・ジャッグレスという――優しくなれない男の話だった。

そして。


「おにーさんで最後だぜ」
「おにーさんで最後なの」


今彼の目の前で血まみれの武器を持った、双子の少女の話である。

二人はトンッと身軽いフットワークで、彼の間合いに入った。身のこなしが凄まじく素早い。あんな大きな武器でよくもそこまで加速出来る。もしかしたら、その武器による遠心力を利用してるのかもしれない。惨たらしい轟音を鳴らして、二人は彼を襲う。


「……ッ」


彼はシャベルでそれを防いだ。するとハニー・フルボトルだけが彼のシャベルとの拮抗を諦め、そして彼の腹目掛けてドリルを翳す。
それに気付いた彼はチェーンソーで自分と対峙するシュガー・フルボトルの腹に蹴りを入れた。軽々と少女の身体は宙を舞う。
しかし。


「シュガーッ!」


ハニー・フルボトルが投げ飛ばされたシュガー・フルボトルの手首を掴む。そしてギュンッと彼の背後へ投げ飛ばした。シュガー・フルボトルは体勢を立て直して、二人で彼を挟み撃ちにした。


「「ッるぁぁああっ!」」


武器を振りかざすその合間を絶妙なタイミングでかい潜り、彼は少女たちと間合いを取った。
また遠くで波飛沫の音。
いくらここが高い建物とはいえ、状況はかなり危険なもの。バランスを誤れば下の淡水の海に真っ逆さまだ。
彼は「ふう」と息をついた。
そして、二人の少女を見遣る。

(ああ、どうしてだろう)
(どうして僕はこの二人と対峙しているんだろう)

彼は拳をギュッと握りしめた。


あの事件から、一年も経たぬころだったか。
一緒にくらしていたハニーとシュガー。二人にも笑顔が戻り、一番幸せだったであろう時期。
彼は思ったのだ。
このまま自分と一緒にいれば、二人も殺しの道を歩んでしまう。
確かに、二人は人を殺めてしまった。だがそれは正当防衛。あまりな言い方をすれば、仕方のないことだった。
彼は殺し屋で。
二人は少女で。
こんな自分が、二人の傍にいてはいけない。
一緒には、いられない。
勝手に拾っておいて。
勝手に引き取っておいて。
彼は本当に酷い人間なのかもしれない。
でも彼は純粋に。
あくまで彼女たちのために。
ある日。
彼は。

二人を置いて、去っていった。




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