“…………さわるな”

“あたしのシュガーに、触るなぁぁあぁぁぁああッ!”

今から数年前のこと。
まだ幼きか弱い双子が、血まみれになって、冷たい小屋の中で佇んでいた。


さて。《愛別離苦》、という男の話。
彼は生まれながらに卑しい身分であり、とある大きな奴隷商の抱える一奴隷であった。そこで彼は土木関係の仕事を担う奴隷として毎日躾られていたのだが、途中で実戦を担う奴隷として移動することとなった。
そこでの毎日は苛酷を極めた。
何もかもが息苦しく冷たく酷く辛く、そして何より寒かった。

だから、彼は逃げ出すことにした。

地道に逃げ口を作り出し、ある夜そこから逃亡した。あとから聞いたところによると、彼のいた奴隷施設は《μto》という大手《カンパニー》が統率する機関で、しかも彼は、史上初の逃亡者だったという。
そんなことは。
どうでもいい。
彼はその逃げ出した先、どうするかを考えた。考えて考えて、考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えてそして、どうしようもないという結論に至った。
彼は生まれながらに身分が低く、友人どころか親という繋がりも無い。対人が酷く苦手で不器用で、人に優しくするというのがどういうものか、少したりともわかってはいなかった。
彼には、まっとうに生きていく道なんて、用意されてはいなかったのだ。
だから彼は、武器を取った。
嫌だった筈の実戦を――人殺しを生業とする生き方を選んでしまった。もうそれしかないと、本気で信じていたのだ。
しかし。
殺し屋としてある程度食べていけるようになったころに――とある仕事が舞い降りる。さる国の都督から依頼された仕事でありで、それは“連続児童誘拐殺人事件の犯人を殺せ”というものだった。なんでもその犯人は、幼い子供――それも姉妹兄弟友人共々、一度に少なくとも二人、森の奥にある小屋まで誘拐し、毎夜一人ずつ殺していくらしい。身代金の要求などは何もない。ただ犯人の目的は、子供たちを殺すこと。いや――違う。ついさっきまで仲良くお互いを励ましながら身を寄せ合っていた兄弟たちが、鉈を持つ反対の手で弟の手首を掴んだとき、自分じゃなくてよかったと兄が見せる安堵感……“二人の中に生まれる裏切りを見る”ことが、唯一の目的なのだ。
趣味の悪い犯人だ。ついさっきまで“怖い”“大丈夫絶対助かるから”などと励ましあっていた二人が、手の平を返したように互いを見捨てる、そんな場景。助けられない、ただ震えている。そんな残酷な場面を見て楽しむ犯人。
愛別離苦は眇む。
およそ、人質を取られたことにより警察が手を出せなくなった事件の処理を、殺し屋に任せてしまおうと――そんな話だろう。彼を送り込むということは、乱闘になっても、そう例え、人質が死んだとしても構わないと、そういうことだった。

彼は、小屋に忍び寄る。

しかし、そのとき。
少女の叫び声が聞こえた。
どこか切羽詰まったような、涙混じりの、しかし、果てしない怒りが鮮現された、そんな叫喚。
誰かが殺されたのかと。
小屋を開けた、瞬間。

“……これは”

犯人が――――死んでいた。
どてっ腹にドリルが突き刺さっている、なんとも惨い有様だ。しかしそれだけじゃない。手足は動けないようにか凄惨な切り口で胴体から離脱している。足元には、血まみれのチェーンソーがいたたましく横になっていた。

“君たちが?”

血まみれの、幼い双子がいた。
目は青と紫のオッドアイ。背格好はまるっと同じ。髪の色だけが違い、解けかけた三つ編みをしたほうは赤毛、二つにくくられたほうは茶髪。
どちらも仲よさげに――狂気的なくらい仲よさげに、手を繋いでいる。
まるで、二人の声が聞こえてくるようだった。
――わたしたちはきっと、二人でいましょうね。
推測するに。
きっと二人のどちらかが殺されそうになり、どちらかがそれを許さなかったのだろう。そして生き残るため、犯人を殺した。

“はじめまして”

――ずっと一緒にいてほしい二人だった。



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