ガスマスクと紙袋の頭をした二人に対し、硝子は「理解出来ないわね」と言っていた。いくら理解出来ないとは言え、こいつが人に対して賛美以外の言葉を用いるのは稀だったため、俺は目を見開く。意外だと言えば「私はいつでも賛美を投げかけているつもりは無いわ。石ころには石ころ以上の価値を見出だせないし、醜悪なものを称賛する舌も持っていないもの」と返された。なるほどそれは言えている。案外素直なんだな、と苦笑すると「うふふ。そうよ、知らなかったの?」と、そして「貴方と会えたことはあたしの人生において、きっと宝石よりも貴く誇れるくらいに素敵なことなんだと、そう、あたしは素直に思っているわ。本当よ、萵苣」と続けた。嘘に違いなかった。
嘘というか信じがたいことこの上ない。いつも通りの笑みを浮かべているものだから酷く解りづらいが。
まあ、硝子の言いたいことは。
あいつがいつも並べ立てる言葉は全て本心だ、ということだろう。


「うん? どうしたの? 萵苣たん。そんなに見つめられると私照れちゃうんだけどな」


小芥苔子は肩を竦めたまま恥ずかしそうに苦笑した――――ガスマスクをつけたまで。
顔見えん。


「い、いや……それより、あの背中の太鼓って折り畳み出来たんだな……」
「ああ、紫電一閃?」


紫電一閃というのは、技の名前であると同時に太鼓の名前でもあるようだった。


「まあね、普段こんなの背追ってたらすっごい邪魔じゃない? 重いから肩だって凝っちゃうし」


いや、折り畳んでるだけだから重量は変わんねえだろ。
俺はちらっと彼女の背に生えた物体を一瞥する。

まるで折り畳まれた羽のように、その円の太鼓は伸縮されていた。全開時よりはコンパクトとはいえ結構目立つ。いっそ不気味と言ってよかった。


「火転の疾風怒涛くらいに小さく出来たらいいんだけどね」


彼女は自分を肩車している男を見下ろした。その下の紙袋を被った男は自分の背中に目を移す。
彼が背負うのは硬質なギターケースだ。黒光りするそれには、疾風怒涛の“柄”が入っている。疾風怒涛はその巨大な扇を柄にしまい込むことが出来るらしい。ギターケースの中にあるのはあの太く長い柄だけだ。


「…………これだって、結構重いから………………」
「うにゃははは、でもスペースは取らないじゃんか」
「まあ…………そうか」


水倒火転は相変わらずのペースで一輪車を漕ぐことに従事した。
俺と魚と硝子と茄子は顔を見合わせる。

なんやかんやで一緒に行動する流れになったこのメンツ。今は俺のタイヤを弁償してもらおうとマーケットへと向かっている途中だ。


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