店員は、フルボトル姉妹らの派手派手な服に目が行っている。
奇抜な服装に見慣れない色の髪、煌めくオッドアイ。それらが合わさって、まるで等身大ビスクドールが動いているようにすら見えてしまう。
そんな二人であるんだから、やはり人目を引き付けてしまうのは当たり前だった。

しかし。


「どうすっかなあ」


まさかタイヤが買えないなんて。これじゃウラオモテランドに立ち寄った意味が無い。とんだ落とし穴だった。上がってこれる可能性は、今のところ、万に一つもないだろう。『チェックメイト』の声をひたすら待つしかないとすら思える。
本当に。
どうしたもんかね。


「萵苣。両替商に行きましょう」
「はぁーん??」


いきなりの硝子の言葉に俺は素っ頓狂な声をあげた。
硝子は「お行儀が悪いわね」と可憐な花びらのように笑う。


「両替してもらうのよ、お金、そうしたら使えるわ」
「まあ、それっきゃねえよなあ…………じゃあ両替商を探すか」
「見つけられたところで、別のところにも問題はあるけどね」
「問題?」


不吉なことをいう女だ。


「為替。あたしたちの持ち合わせているお金が、その三百十四ペゴペゴとやらに匹敵する価値があるかっていうこと」
「……うん?」
「……貴方理系だものね。ふふ、そうねー、例えるなら、石ころを宝石に変換するには、一体どれだけの量が必要かってことよ」
「…………なるほど、わかった」


例えがブッ飛び過ぎてた割には判りやすい説明だった。
いやあ、どうもそういう現代社会知識は苦手なんだよな。

それにしても、多分まだ未成年だというのに、硝子は年相応という枠に囚われないな。一瞬でそこまでのことに気付くなんて。
俺が別格に疎いというのもあるだろうが、それを引いたとしても、硝子は本当に聡い女だった。


「あー……じゃあ、その、また来まーす……」
「あ、はい」


アルバイトであろう少年にお辞儀をして、その場を立ち去ろうとした――――――――――、正にそのとき。


「すまない、そこの緑の彼が頼んでいたタイヤを一つ」


俺の真横に。
その声は沸き立つ。

沸き立つような女の声だった。
勢いはまるでないけれど、それでもどこか強く、それでいてユルリと耳を揺らす軽やかなアルト。

“緑の彼”と、言った。
流石にこれは自分のことを言われているのだとわかる。
俺は声の主に目を遣った。



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