マーケット展開や市場規模っていうのは、その国の発展性をモロに見立てていると思う。その点においては、ウラオモテランドはかなり目覚ましい発展を遂げていると伺えた。
市場規模もつつがなく壮大。
品質も申し分なく一級品だ。
本当にいい国に逃げ込めたもんだと、そんな風に感じていた。
――国、だったのだ。
そう。
ウラオモテランドは、“国”だったのだ。
忘れてはいけない。
高を括ってはいけない。
俺達は紛れもなく、“入国審査”を行っていた。
町や地方に入るのに“入国審査”はありえない。
俺達は、ウラオモテランドという名の、国に入ったのだ。
しかし。
「……もう一回、頼む」
俺は忘れていた。
完全に、失念していた。
バカにもアホにもほどがあった。
「お会計……」
レタス号三世のタイヤを捜し求めて、やっとマーケットについた。愛の嬢ちゃんと別れて、レタス号三世に合う型のタイヤを購入しようとして。
そこで、やっと、気付いたのだ。
「――三百十四ペゴペゴでございます」
……通貨単位違ぇ。
「さ、さんびゃくよんじゅう……ペゴペゴ?」
「……? はい……ペゴペゴが無いのでしたら、十七ブニュンになります」
ブニュンもねぇよ。
なんだそのヘンテコな名前。
見たことも、聞いたことすらもない通貨。
俺は失念していた。そうだ。ウラオモテランドは国なんだ。だったら、独立した貨幣があったって、なんら不思議じゃないんだよ。
目の前の、バイト店員かと思われる、十六歳くらいの少年が、訝しげに俺を見つめていた。
俺は財布を開く。
試しに財布の中の紙幣を出してみた。「……オモチャじゃない本物のお金、出してくださいよ」だとかいう解しがたい言葉が、不愉快そうな眼差しと共に返ってくる。
オモチャじゃないからな。
虎の子一万円だぞゴルァ。
しかし、これはマズったぞ。
背後の硝子たちに視線を向ける。やはり俺と同じく、困ったような笑みを浮かべていた。フルボトル姉妹だけは暢気そうに、店内の荘厳なオブジェを見つめて「すべり台みたいよ、ハニー」「ならすべっちゃおうぜ」「逆登りもしたいわ」「競争すっか? シュガー」「いいわよ!」と無邪気な会話をしていた。
やめろ。
俺のニブちんな美的センスや美術教養でも一目でわかる。
それ、大理石だ。
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