「騒禍ちゃん。君は本当に、戦争が大好きなんだね」
「うん」
「戦争が好きで、強い人間が好きで、だから、《回遊魚》を戦争に巻き込みたい……そういうことなんだね」
「うん」


誘誘は「そっか」と苦笑した。どことなく少年的な雰囲気のある彼のそれは、麗しい見目とも相まって、少し幼げに見えた。
そっか、そっか、と呟いて。


「――――それは、《へーくん》みたいに?」


その言葉に、戦争谷騒禍の表情は崩落した。
崩落し陥落し騰落した。
その容姿も相まって、まるで人形のようにも見える。
彼女は僅かに目を伏せて言う。


「…………そうだよ」


彼女らしからぬ覇気の無さ。普段は、確かにかなりか弱いけれど、彼女の声はよく通るそれだった。しかし、今は目に見えて、耳に聞こえて、あからさまに明らかに、意気消沈したような声音だった。


「へーくんは、強かったからね。あたしが今まで生きてきた中、断トツで強かった」
「同感だよ。……戦闘センスでも基礎体力でも経験でもない。純粋かつ純然たる《強さ》――本当の本当の意味で、彼は圧倒的に強かった」


懐かしむように、二人は話した、その“へーくん”のことを。


「彼は間違いなく強かった。強くて強くて、強かった。あたしはきっと、この先も、へーくん以上に強い人間に会うことはないだろうね」


肩を揺らして。


「まあ死んじゃったわけだけど」


あっけらかんと呟いた。
あっけらかん、とはしているが、しているだけだ。
しきれては、いなかった。
言葉の節々から感じる尖りを帯びた哀愁。自嘲するように自責するように、それでも、それを誰かに丸投げするように、戦争谷騒禍は呟いた。


「でも、まだ死んだとは限らないじゃない」
「死んだよ。死んだ。彼ぐらいの人間が消息不明になった時点で、彼の死亡は間違いないの」
「そうかな」
「そうなんだよ。彼は死んだ。案外呆気なかったけどさ。あはははははっ、もっと楽しませてくれると思ってたのに」


彼女の言葉に、誘誘は「よく言うよ」と、目を瞬いて見せた。


「今世界で一番過激な戦争をしている暗黒大陸に、彼を送り込んだのは君でしょ?」


戦争谷騒禍は目をつぶった。

彼の言う通りだった。
暗黒大陸の大戦争に“へーくん”を巻き込んだ。それはもう、なんの躊躇いも惑いもなく。
気違いなくらいな執着と。
気狂いなくらいの渇望で。
“へーくん”を、世界で一等死に近い場所に。


「怖くて可愛いくらいに、綺麗な狂気だね、騒禍ちゃん」


呼ばれた彼女は、瞳を伏せた。

“へーえ、ものスッゴい健気なヒトじゃねえですか、せんぱい”

誰もが《狂気》と呼んだ戦争谷騒禍の《弱さ》を、一人《健気》と言ってくれた、果てない《強さ》の彼を思って。


「騒禍ちゃん」
「なあに?」
「なんで君はそんなに強さに執着して渇望するんだい?」


誘誘は、彼女の髪から指を離す。そのまま彼女の顎を撫でて、首へと手をすり寄せた。か細い首を掴んで僅かに力を込める。
しかし。
戦争谷騒禍に抵抗は見られない。何も言わない。
それは彼女が知っているからだ。
たとえどれだけ足掻いたって。
果てなく弱い自分が背後に立つ彼に勝てないことなんて、言われるまでもなく知っているからだ。



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