今から約4年前。もう相手の顔も思い出せねぇ程の擦り切れた、断片的な記憶。唯一はっきりと覚えている事と言えば、まぁせいぜい、ある一人の女と、雨足が強く、やたら天気が悪い日だった事くらいだ。

その日、都心から少し離れた住宅街のタクシー乗り場前に、青い傘を差したまま、ボーっと突っ立っている一人の女が視界に入った。珍しく酔いが回ったアルコールのせいなのか、俺はただ何となくその女の横顔に見惚れ、ただ何となく気分で声を掛けた。

「…んな所で何してやがる。さっさと乗れ、風邪引く」

そう話し掛けた瞬間、こちら側に振り向いた女の表情を、俺は生涯忘れる事はないだろう。

「あぁ、有難う。でも気にしないで。私、好きでここに居るから…」

何故なら、女の頬を伝う雫は雨で濡れたものなんかじゃなく、どう思考を巡らせてみても、自らの意思と感情で溢れた涙にしか、見えなかったからだ。

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