07.まだ見ぬ、追い風



「やっと起きたか」

窓から差し込む太陽がやけに眩しくて、険しい表情で瞼を開いた私に、ローさんは開口一番そう呟いた。ほとほと呆れたような表情でベッドに横たわったまま枕の上に頬杖をついているローさんと視線が合う。目覚めて早々大好きなローさんの顔を拝めてテンションが上がりまくった私は、どさくさに紛れてローさんの広い胸の中に飛び込んだ。私の行動を特に拒否する訳でもなく、はぁ、と小さな溜息を吐いたローさんにやんわりと頭を撫でられる。朝から最高か!

「おはようございます、ローさん!良い朝ですね!」

「良い朝なのはお前だけだ。さっさと起きろ」

「えっ、今抱き着いたばっかりなのに?」

「知るか。朝から何バカな事言ってやがる。退け」

優しく頭を撫でてくれていた癖に、我に戻ったローさんは速攻で私の身体を引き離した。もう、何照れてるんですか!と口にしたら、あぁ?と倍の眼力で黙らされたのでそれ以上は口にするのを止めておいた。それにしても中々良い天気だ。悪くない。

「ところでローさん、昨日は話を聞いてくれて本当にありがとうございました!」

「あ?…あぁ、別に。礼を言われる筋合いはねぇ」

「とか言って!何だかんだいつも優しいくせにぃ!」

「黙れ。朝からキャンキャン吠えるな犬。良いからさっさと起きろてめぇ」

「はーい!」

文句を言われても何のその。ニコニコと笑顔を隠しきれない私にローさんは、はぁ、と呆れた表情で溜息を吐いていた。今日は例の島に突入する前に、それぞれ必要な物を先に揃えて備えあれば憂いなし!の日である。では早速…とベッドに起き上がって直ぐに着ていた服を床に脱ぎ捨てた私に此方に振り返ったローさんがぎょっとした表情で目を丸くした。え、何でそんなに驚いてるんですかローさん。もう私達共に一夜を過ごした仲じゃないですか!

「おい、てめぇ…着替えるんなら自分の自室でしろ」

「大丈夫ですって!昨日こっそりと自分の部屋から持って来てたんですから!このパーカー!」

「んな事聞いてねぇんだよ。目に毒だ、俺の」

「もーまたぁ!すーぐそうやって照れるんですからー!」

お前の目は節穴か?そうとでも言いたげな表情で顔を顰めたローさんの腕に自分の腕を絡ませて下から覗き込むようにして見つめた。そんな私に何を言っても無駄だと思ったのか、ローさんはぶっきらぼうに「好きにしろ」と呟く。ではお言葉に甘えて好きにします!と返事を返してローさんに寄り添うにして肩に頭を乗せては身を任せてみた。ローさんは特に私の腕を振り払う訳でもなく食堂へと向かい、どこぞのカップルのようにローさんにピッタリと寄り添って、すれ違いざまに船内で出くわしたクルー達に手を振って笑ってみせる。皆揃いも揃って口パクで「良かったな!」と暖かい言葉を送ってくれるので、本当にローさんの彼女になれた気がしてとても気分が良かった。

「遂にキャプテン、血迷ったんですね」

「まさかナマエと出来ていたなんて…!」

「あ、おはよー!キャプテン、ナマエー!」

食堂に辿り着いて早々、やんややんやと好き放題四方八方からそれぞれの感想を口にするペンギン、シャチ、ベポ(は、ただの挨拶だけど)にローさんは無の表情で一言「違ぇ」とだけ呟いた。えっ、何もそんなに秒で拒否しなくても…!とショックを受けている私の頭を軽く撫でてローさんが上座の椅子に腰掛ける。

「キャプテン、例の島の事ですが明朝決行する予定ですか?」

「あぁ…モタモタするつもりはねぇからな」

「どんな島なんすかねー!俺まじでワクワクしてきたっ!」

「きっとメスの熊が沢山いるんだよ!」

朝から酒瓶片手に盛り上がっているシャチと、パンを口一杯に頬張っているペンギン、ホットミルクをゴクゴクと一気に飲み干しては「カァーっ!」と親父くさく口元を拭っているベポ達に笑みが溢れた。クルーになって暫く経つけれど、島に上陸する度に彼らの絆の深さと前向きな姿勢には脱帽である。それぞれ個性は強いけれど、共に同じ場所を目指して前に進んでいく彼等は単純に人として尊敬に値するからだ。

「ナマエ、」

「なんですか、ローさん!」

「お前…今日は一日俺から離れるな」

「えっ、」

コックが食卓にコトン!と置いた珈琲を一口喉に流し込んだローさんが、無の表情で私に指示を出した。思いもよらぬその指示に目を丸くしてパチパチと2回瞬きを繰り返す。お、俺から離れるな…?何ですかそれ。遂に私の想いがローさんに伝わっ、

「違ぇ。お前とシャチは昨日海軍と殺りあったばかりだろ。島に上陸する前にキーパーソンであるお前自身に何かあったら面倒だろうが」

「あ、なるほど。そういう事ですね…」

「何かあっても距離が離れてたら助けるのにも時間が掛かる。よってお前は今日一日俺の側にいろ」

「はいっ!喜んで!」

とりあえず、理由はどうあれ自分の側から離れるなとローさんに嬉しい指示を出されたのでホワホワとした気分になった。そもそも四六時中ローさんに付き纏っている私なのだ。お安い御用だし、そんな嬉しい事は他にない。飼い主に尻尾を振る犬のように指示を出されてすぐに背後からローさんに抱き着いてみたけれど「今は呼んでねぇ」と拒否られた。何故だ!たった今俺から離れるなって言ってくれたのに!

「とりあえず、ペンギン」

「はい?何でしょう、キャプテン」

「お前ら3人はこの船に残って見張りしとけ。何かあったら俺の電伝虫に掛けろ」

「了解です!」

朝のキラキラとした海に反射するように、眩しい笑顔で額に手を当て敬礼をするペンギン。それを真正面から見つめていた私もつられるように額に手を添えて笑みを浮かべた。今日は一体どんな一日になるんだろう。何はともあれ、ローさんと一緒ならいつだって私はそれだけで幸せなのだ。





「おい、さっさとしろ。遅ぇ…」

「いやいやいやっ!ローさんの足が長すぎるんですよ…!ちょっとは私に歩幅を合わせるとかそういうのはないんですか…!?」

ねぇな。そう一言吐き捨ててスタスタと前を歩いていくローさんにトホホと肩を落とした。あれから早2時間。必要物資をある程度買い揃えた私達は船に戻ろうと先を急いでいる所である。何かあった時の食料品の買い溜めに、量が減ってきた私の美容グッズに、服に靴。あれ?ほぼ自分のだなと途中で気付いて荷物持ちの今の状況に妙に納得をした。何とかローさんとの距離を縮めて追いついた広い背中に「好き!」と叫ぶ。いつもなら完全スルーの私のその発言に、珍しく反応を示したローさんの足がピタリと止まった。

「………お前、」

「え?」

「それ、いつもそんな事言ってて飽きねぇのか」

「……………」

わざわざ踵を返して口にしてくれたその言葉は、私にとっては予想外の発言だった。飽きる訳がない。私にとっては心からの本音なのだから。

「飽きる所か、毎日ローさんに恋焦がれてますよ!……えっ。ちょっと待って!まさかローさん。冗談だと思ってたんですか…!?」

「………いや、冗談である事を願ってた」

「嘘でしょ…!?」

ショックを隠しきれずに、思わず口元を手で覆った私にローさんの冷めた視線が突き刺さる。な、なんてこった…!今まで毎日告ってきた私の苦労が最早水の泡じゃないか!

「お前のその好きとやらは、ただの年上の男への憧れだ。さっさと目を覚ませ」

「ちっがいますって!本当に好きだもん!ローさんの事!」

「はっ…どうだか。まぁせいぜい気の済むまで言ってろ」

「えぇ!言いますよ!ローさんが私に振り向いてくれるまでね!」

「……………」

勘弁してくれ。とでも言いたげな顔で無言で踵を返したローさんの後を追う。ようやく隣に肩を並べて船まで戻る道の途中で、下からチラリとローさんの顔を見上げた。……ただの年上の男への憧れ。いや、違うな。絶対それは違う。確かに彼のルックスはかなりタイプだけれど、それ以上に中身が良いのだ。こんな人、毎日側に居て惚れない訳がない。

「………あ、雨」

「あ?」

その時、ポツポツと頭上から小雨が降り出した。頬に落ちた水滴を指にとって軽く拭うと、次の瞬間この地点だけバケツをひっくり返したかのような大粒の大雨が降り注いだ。「ちっ、」と面倒臭そうに舌打ちをしたローさんは、私の肩を抱き寄せて近くの屋根がある場所まで誘導しては「とんだ異常気象だな」と独り言を呟いていた。

プルプルプルプル…ガチャ。

「おい、ベポ。これは一体どういう状況だ。………あぁ?そっちは一つも降ってねぇだぁ?」

「えっ…!?」

どうやらローさんが電伝虫に掛けた通話相手はベポのようだった。ベポは我がハートの海賊団が誇るとても優秀な航海士だから、きっとローさんもこの異常事態は何なのだとベポに理由を求めたんだろう。けれどそれはあくまでも海の上での話。陸に上がっているこの状況下では折角のベポの豊富な知識もザルと化してしまう。

「あぁ、分かった。とりあえずお前等はそこで待機してろ。こっちの心配はいらねぇ」

そこまで口にして、少々雑に通話を切ったローさんは心底不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。暫くの間そのまま2人して雨宿りをしていたけれど、どうやら一向に雨が止む気配はない。空は晴れ晴れとしているのに土砂降りの雨が周囲の雑音を掻き消す程の威力で正直かなり驚いている私。どうしたもんかと隣で頭を悩ませていた私に「仕方ねぇ。諦めるぞ」とローさんが溜息交じりに呟いて、私の腕を自分の元へと引き寄せては手にしていた小石をピン!と空中に放った。

「えっ、あ…諦めるって何を…って、きゃっ!」

有無を言わさず、ローさんの能力を使って辿り着いたそこは築年数は古いけれど、とても小洒落たレトロな宿だった。いつの間にかローさんにお姫様抱っこをされていた私がはっと現実に戻る。そうしてゴクリと唾を呑み込んだ。

「ロ、ローさん…まさかこれって…!」

「当然、部屋は別だ」

「なんでー!?そこは一緒の部屋にしよーよ!」

キタコレ!大人の展開!と一気にテンションが上がった私に、ローさんはズバっと私を拒否をした。腕に抱えていた私をそこに降ろして、子供をあやすようにポンポン!と二度頭を撫でてくれたローさんは「そこで大人しく待ってろ」と言い残して、慣れた感じで淡々と受付を済ませている。折角のエロい展開…じゃなくて。最高のシチュエーションなのに、本日も本日とてローさんはつれない。見た目と違って何てガードの固い男なんだ…

「あぁ?部屋は一つしか空いてねぇだぁ?」

「はい、申し訳ありません…!何せ急に降り出した雨ですから…本日は他のお客様で一杯でして…」

「ちっ、なら良い。他の宿をさが、」

「是非とも一部屋でお願いします!」

「おい、ナマエてめぇ…」

どっから湧いてきやがった。そう隣で文句を言い放っているローさんを無視して、ロビーのカウンターに肘をついてはニコニコと受付のおじさんへと満面の笑みを向けた。そのまま手渡された部屋のカギを前から奪い取るようにして掴み「さっ!ローさん行きましょう!」と半ば強引に此方に呼び寄せる。

「おい、くそガキ…てめぇちゃんと意味分かって言って、」

「わー!ちょっとローさん大変!この宿、ご飯めっちゃくちゃ美味しそうです!」

「……………」

「不幸中の幸いって奴ですね!」

ねっ!?と念押しするようにローさんの腕に巻き付けた私の腕を虫でも払うかの如くサっと拒否をされてしまった。どうやら彼の鉄壁のガードは崩れる事はないようだ。うーむ、手強い。

「ナマエ、お前もさっさと先に風呂に入ってこい」

部屋に辿り着いて早々、ローさんは烏の行水のようにお風呂に入って部屋に配置されてある冷蔵庫のドアをパカっと開けた。そのまま手にした酒瓶を斜めに傾けて喉にお酒を流し込んでいる。その様が何だかやけに色気を感じてボーっと見惚れていた私の視線に気付いたローさんと目が合った。そのままそこに突っ立ったままの私の元まで距離を詰めて、耳元にローさんの唇が這う。そうして一言、ニタリと悪そうな顔をして「俺が脱がしてやろうか」と低い声で囁かれた。

「だ、大丈夫です…!一人で出来ます…!」

「ならさっさと行け。風邪ひくだろうが」

「は、はいっ…!」

完敗だ。何って破壊力…!最早ここまできたら、ただの嫌がらせにしか思えない。耳元にローさんの熱い吐息が被さって囁かれたその発言にドキドキしまくって呼吸困難になりかけてしまった。何とか冷静を装って浴室へと向かい、脱いだ服を無駄に丁寧に折り畳んでお風呂に入った。ある程度身体を綺麗に洗い終えて浴槽へと浸かる。ピチョン…!と控えめに天井から滴り落ちた水滴に目を瞑って、はぁ、と小さく溜息を吐いた。




「………ロー、さん?」

「……………」

ドライヤーを終えて、浴室から出てきた私の目の前には、ベッドに横たわって薄く口を開けて寝息をたてているローさんが。その可愛い寝顔にキュン、と胸の奥が疼く。……少し幼い顔をしてる。彼のトレードマークでもある隈にそっと親指を滑らせては、その可愛い寝顔に自然と笑みが溢れた。

「………お前、風呂から出たんなら声掛けろよ」

「あ、おはようございますローさん。寝顔が可愛いすぎて…つい」

「……………」

私の気配に気付いたのか、ローさんはパチっ!と目を開けてすぐに真っ直ぐと私を捉えた。窓の向こう側では未だ土砂降りの雨が降り注いでいる。窓に打ちつける大粒の雨音が邪魔をして、ローさんがその時小さく呟いた声は余りよく聞こえなかった。ゆるゆると隈を撫でていた私の手を捕まえて、中途半端にそこに体制を起こしたローさんに凝視されてはドキっ!とお決まりのように胸が高鳴った。

「隙だらけだな」

「………え?」

ぐいっと腕を引かれて、ローさんの大きな胸の中に飛び込むようにして倒れ込んだ。簡単に言えば、私がローさんを押し倒しているような感じだ。いや、感じっていうか実際はそうなんだけど。ローさんの大きくて形の良い手がスルリと一度私の背中を撫でる。その手つきがやたらと快感を感じてしまって「んっ、」と甘い声が漏れた。

「ナマエ、お前の考える好きとやらは…俺とこういう事をするのも含まれてんのか」

「………えっ、」

「男と女が最終的に辿り着くのは、身体を繋げる行為だけだろ」

そう言って、艶やかな笑顔で微笑んだローさんのもう片方の手が私の後頭部へと廻る。そのまま前に引き寄せられて、一気に2人の距離は縮まった。首周りと背中に腕を廻されているせいで、逃げようにも逃げられない。けれども逃げたいとは1ミリも思わなかった。

「………ですよ」

「………あ?」

「……良いですよ。ローさんになら…私、何をされても…」

「……………」

もうすぐそこまで迫ってきていたローさんの藍色の瞳をじっと見据えて、心からの想いを口にした。肝心のローさんは大きく目を見開いたままピタリと動きを止めて、どうやら驚きを隠せないようだった。…そうだ、私はローさんになら何をされても良い。例えローさんが本気で私の事を好きじゃなくても。例えそれがただの虚しい行為に値するとしても。

「それほど、私のローさんに対する想いは本気です…」

「……………」

言う事を言って、何処となくスッキリとした自分の気持ちを受け止めるようにそっと瞼を閉じた。ローさんの首元に腕を廻して、流れに沿うようにぐっと顔を近付ける。思い描いていたファーストキスの形とは少し違うけれど、こういう関係から始まる恋だってある筈だから。

「……………って、あれ!?い"っ!!ったぁあい!ちょっ、何でぇっ!?」

あともう少し!といった所でローさんに両頬をぎゅっとつねられた。ちょっとローさん!痛いです!とぎゃあぎゃあと喚く私に、ローさんはハァー…っと重苦しい溜息を吐いている。そのままムクリと起き上がったローさんと向かい合う形で視線が重なった。

「………おい、くそガキ」

「ひゃいっ…」

「てめぇ…何処でそんな馬鹿な言葉を覚えやがった」

「……ひぇっ?」

そうか、分かった。シャチだな。と、まだ何にも答えてないのにローさんはブツブツと独り言のように文句を吐き捨てた。ようやくつねられていた指も離されて、ヒリヒリとする痛みを緩和させる為に両頬を撫でる。涙目でローさんを見つめていると、その私の視線に気付いたローさんにギロっと睨まれた。……あ、詰んだ。死ぬかもしれない、私。

「てめぇ……本当いい加減にしろよ」

「な、何がですかぁ…っ、」

「うぜぇんだよ、昨日からこの俺を振り回しやがって…」

「そ、そんな事したつもりなんてありませんけどっ…!?」

正直、ローさんが何に怒っているのかは分からなかった。けれどローさんの逆鱗に触れた事だけは理解出来た。ベッドの毛布を乱雑に剥いで、此方に投げ飛ばすかのようにバサっ!と全身に私を包ませたローさんは、毛布ごしにワシャワシャと私の頭を撫でてそこに大きな溜息を吐く。

「さっさと寝ろ、ガキ」

「もー!一体何に怒ってるんですかローさん…!」

ようやく得た毛布の隙間から顔を覗かせて、プクっと頬を膨らませた私にローさんは困ったように眉を下げては視線を横に逸らした。罰が悪そうに首裏に手を当てて、窓の向こう側の土砂降りの雨をぼんやりと眺めている。陽の光が余り入らないこの部屋の中心核には、ローさんと私の2人がベッドの上に存在していて。何だかもうよく分からないけれど、やっぱりこの状況は美味しい展開だと思わずにはいられなかった。

「…………ナマエ、」

「はい、何ですかローさん!」

「お前……俺以外の男には言うなよ」

「えっ、何がですか?」

「……………」

ローさんの注意が、何を指しているのかが全くと言って良い程よく分からなくて横に首を傾げた。目を丸くして、じぃっとローさんを見つめる私に、彼は心底うざったそうに舌打ちをする。そのまま再びぐいっと腕を引かれて、ローさんの膝の上に横抱きにされてしまった。ま、まずい…これはドキドキしすぎて多分あと5秒後には死ぬ。近い!

「………さっきみたいな、男を誘惑する発言の事だ」

「……………」

「分かったのか、バカ」

「!は、はいっ…!」

そう言って、最後にふっと柔らかい笑みを溢したローさんにうっかり見惚れてしまった。それを隠すように、どさくさに紛れてローさんに一気に抱きついた。だってほら、今日は1日俺の側から離れるなと言われていたから。いつかもっと距離が近付いたら、今日のこのローさんの発言の意味も紐解ける日が訪れるのだろうか。決して憧れなんかじゃない。確かに私はローさんに惹かれている。改めて自分の気持ちを再確認したと同時に、そのまま真後ろに体制を崩されて2人して同時にベッドに身を沈めた。

「お前の寝顔の方が…100倍可愛いだろうが…」

ウトウトと、最後に眠りにつく前にローさんが独り言のように呟いたこの言葉。その意味を知るのは、そう遠くない未来であって欲しいと、そんな事を願いながら。






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