「あ?同窓会?」

「そー!来週の土曜日!」

久々にルフィ達以外の高校の友達と会うから楽しみだなぁ。と、嬉々とした表情で頬を綻ばせるナマエに俺の動きがピタリと止まった。リビングのソファーに2人して腰掛けて、観たくもない恋愛映画の観賞会が繰り広げられている今現在、テレビには海外の有名女優と俳優が演じるラブシーンが流れている。サイドテーブルにあるリモコンを手に取って、プチ、とテレビを消した俺の行動にナマエは「あーっ!なんで!?」と大声で喚いた。うるせぇ、耳元で騒ぐんじゃねぇよ。

「もー、折角良いシーンだったのに…本当ローって、」

「おい」

「え?」

勢い余ってそこに立ち上がったナマエの腕を引き寄せて、背後から捕獲するかのように腕を回してはこっち向けと顔だけ振り向かせた。親指と人差し指の2本で頬を掴んでやり、俺に睨みをきかせてくる気の強いナマエは機嫌を損ねたのかプク、と頬を膨らませて不服そうな顔をしている。

「な、なに…!」

「その同窓会、男も来るのか」

「あったり前でしょ!同窓会なんだから!」

「却下だ」

「…………は?」

「却下」

「……………」

念押しするように、二度同じ言葉を繰り返した俺にナマエは白眼を剥いて固まった。あんたに何の権利がある。そうとでも言いたげな顔で眉を寄せるナマエの腰を引き寄せて「断りの連絡入れとけよ」と至近距離で呟いておいた。勿論俺の意見なんざ聞きやしねぇこの女は、その後もぎゃあぎゃあと喚いては「やだね!絶対行くから!」と俺に宣言をして派手な足音を立てながら隣の自分の家へと戻って行った。ちっ、と舌打ちをしてソファーの背凭れに体重を預けて深い溜息を吐く。……あいつ、本当に自分の事分かってねぇな。



「ハッキリ言ってやれば良いじゃないですか。お前が可愛いすぎて他の男にちょっかい出されないか心配だって」

「……………」

「そもそもキャプテンは言葉が足りないんですよ」

次の日。仕事終わりにペンギンと一杯引っ掛けようと適当に入ったその辺の居酒屋で、生ビールを片手に煙草を燻らせていた俺に対して、ペンギンは淡々と結論を言い放った。冷静を保つように長く白い煙を吐き出しては再び煙草を口に咥え「あぁ?」と目の前に座るペンギンへと冷めた視線を流した。

「ただでさえナマエは鈍い女なんですから。あーいうタイプはハッキリ言ってやらないと分からないですよ」

「うるせぇな、てめぇは俺の母親気取りか」

「はいはい、俺に当たるのは勝手ですけどどうしてもナマエを同窓会に行かせたくないんならちゃんとした理由を言ってやらないとあいつは納得しないと思いますよ」

「……………」

「まぁ、そもそもそんなに心配しなくても大丈夫だと思いますけどね。だって、たかが同窓会でしょう?今更この歳になってそんな間違いなんて起きないと思いますけど」

ははは!と爽やかに笑うペンギンに肺に収めた白い煙をフーっと吐き出してわざと顔に掛かるように仕向けた。「何の真似です?煙たいんですけど」といつぞやのように真顔で俺に訴えてくるペンギンを無視して手にしている生を一気に喉に流し込む。灰皿に煙草を擦り付けてテーブルに頬杖をついた俺にペンギンは口角を上げて穏やかな笑みを俺に向けた。

「それにしても、たかが同窓会如きのイベントにもナマエを行かせたくないなんて…キャプテン本当にあいつにベタ惚れですね」

「馬鹿言え。誰がだ」

「あんたですよ、あんた」

徐々にアルコールが廻ってきたのか、普段より砕けた口調とケラケラと上機嫌に笑うペンギンを睨みつける。だが口ではそうは言いつつも、その意見は正しかった。ナマエと付き合い出して約2ヶ月。元から家が隣同士という事もあり、以前にも増して2人で過ごす時間が多くなった。勿論喧嘩をする事も多いが、それさえも可愛いく思う自分は遂に頭がイカれたのかと疑う程、ナマエに日々惹かれているのが手に取るように分かる。お陰でペンギンが言うように、ただの同窓会でさえもあいつを行かせたくねぇと思うようになった。出逢った当初の俺からしてみればとんだ誤算だ。

「……腹括るしかねぇな」

「え、なんて?今何か言いました?」

「いや…別に」

ガヤガヤと騒がしい店内の喧騒に紛れてボヤいた独り言は、自分の気持ちに折り合いをつけるには充分な場所だった。2週間前、たまたま用意していたそれが俺のデニムのポケットの中で日の目が来るのを待ち侘びているようにも思える。自嘲気味に一つ息を吐き出しては、どうせあいつは俺が止めても同窓会には参加する気なんだろうと、ぼんやりとそんな事を考えていた。たかが同窓会、されど同窓会。ペンギンは大した事じゃねぇと俺に教えを説いてくるが、大人になった男と女が何かの間違いが起きても不思議ではないと俺は思う。だがまぁ、よくよく考えてみれば麦わら屋達も参加するだろうし、確かにそんなに気を張らなくても良い案件なのかもしれねぇなと気を取り直して、その時の俺は何とか他に意識を逸らし続けていた。




「じゃ、行ってくるねロー!帰る前にちゃんと連絡するからね」

「……………」

問題の土曜日当日。俺の予想通り、あいつはニコニコと晴れやかな笑顔で同窓会へと向かおうとしていた。あれから結局何度行くなと止めても一向に俺の話を聞かなかったナマエは、あろう事か普段よりもかなり気合いを入れた格好をしている。……おい、スカート短すぎねぇか。襲ってくださいと言ってるようなもんだろうがそれ。と内心苛立ちを露わにしつつも意味もなくテレビのリモコンに手を伸ばしては「あぁ」とだけ返事を返した。

「行ってきまーす!」

最後に俺の頬に唇を寄せたナマエの顔を下から見上げては無言のまま横目でその後ろ姿を見送った。何時間か時が経ち、暫くの間何も考えずぼんやりとテレビを見ていたが、いよいよ居ても立っても居られなくなり、部屋の鍵を握り締めて家を出る。コンビニで酒でも買って気を取り直そうと意気込んだ矢先、ポケットに忍ばせていたスマホが震え通知に目を通した。LINEの送り主は予想通りナマエからの連絡だった。

「………誰だよ、この男は」

わざわざご丁寧に写メを添えて「同窓会楽しんでるよー!もうちょっとで帰るね!」と笑顔で写っているナマエと麦わら屋達。……と、ナマエの頭に顎を乗せて背後から抱きついている謎の元クラスメイトの男に眉を寄せた。久々の再会にどいつもこいつも浮かれてやがる。まぁその気持ちは分からなくもねぇが…だからと言ってわざわざ抱きつかなくても良いだろうがとチッと舌打ちを零した。

「面倒臭ぇな…」

正直一番面倒臭いのは俺自身だ。いつから俺はこんなに気の小せぇ男に成り下がったのか。それもこれも全部あいつのせいだ。ある日突然俺の目の前に現れて、あっという間に俺の心の中に入り込み、そして一気に俺を落としたナマエは何処の魔性の女かとたまに疑ってしまう。恐らくナマエは気を悪くしている俺に気遣って何もないから安心しろ、とでも言いたいのだろう。だが残念ながらそれは逆効果だ。現に俺はまんまと嫉妬に狂っている。自分でも引く程に。

「……………」

コンビニに向かう足をピタリと止めて、踵を返して逆方向に方向転換をする。そのまま一直線にある場所へと向かった。柄でもない行動に移す自分に呆れさえも覚えたが、冷静さを保てない今の俺は生憎そんな余裕はないらしい。

「覚えとけよ、あの女…」

何となく踊らされた感は否めないが、それ以上に腹が立って仕方ないので諦めるしかない。そんな言い訳を何度か心に並べては目的地へと向かった。途中歩きながらLINEを起動して一言メッセージを送る。「迎えに行くからそこで待ってろ」と。呑気な俺の女の、ナマエに向けて。




「ロー!?何で…どうしたの、こんな所まで」

「…………」

店の場所は予め知っていた。こんな事もあろうかと事前にナマエから聞き出しておいたからだ。再会して早々素っ頓狂な声を挙げて俺の登場に目を丸くしたナマエに気が重くなる。どうやら俺のLINEには目を通して無かったようだ。それにしても…おい、ペンギン。何が何もねぇだ。俺の嫌な予感は的中しやがったぞてめぇ。

「えーっと、ナマエ。この謎のイケメンは…?」

「えっ!か、彼氏…!」

「彼氏ぃ!?お前それ先に言えよ!」

やべぇ!勝てる気がしねぇ!そう言って、訳が分からねぇ発言を口にして男は後退りでその場を去って行った。当然だ。俺が無言の圧力で男を追い払ったからだ。店に辿り着いて早々、丁度お開きの時間となっていたのか店の前である二人の男女がぎゃあぎゃあと騒いでいて、近付いたら案の定それはナマエと写メに写っていたあの男だった。何にも口にせず、上からただ見下ろしてやっただけの事だが、俺の眼力にやられたであろう男の腰が引けて、逃げ去るようにこの場を後にしていった男に苛立ちは募る。ついでに隙が多いナマエにも苛ついた。

「おい」

「はいっ!すみません!」

「まだ何にも言ってねぇ」

「いえ!言わなくても分かります!ごめんなさい大魔王様、私に魅力がありすぎて元同級生に口説かれてしまって!」

「あぁ?口説かれただぁ?」

「げっ、そこまでは聞こえてなかったの…!?迂闊だった…」

罰が悪そうに、ゴニョゴニョと独り言を呟いて冷や汗を掻いているナマエにハァと溜息が漏れる。ほら見ろ。お前は何にも自分の事が分かってねぇんだよ。

「あら?トラファルガーじゃない!なになにー、ナマエの事が心配でわざわざここまで迎えに来たわけ?」

「おー!トラ男!ひっさびさだなぁ!なんだぁーお前!来るんなら俺に連絡ぐらいしろよ!」

「ナマエちゅわぁぁああんっ!今日は本っっ当に楽しかったね!良かったら今から俺等と二次会に…っテェ!おいマリモ!てめぇ何しやがんだクソ野郎が!痛ぇだろうが!」

「バーカ、ナマエだけ此処で解散だ。トラ男の面見てみろ。空気読めグル眉」

「あぁっ!?」

今にもナマエに抱きつきそうな勢いだったエロコックの動きを阻止して、ん、と顎で俺達2人を指したゾロ屋に目で礼を伝えては、ナマエの腕を掴み来た道を引き返した。無言のままマンションに戻り、部屋に戻って来て早々ソファーに後ろから倒れ込んだ。当然だ。帰って来て早々疲労が後追いしてきたからだ。目元に腕を当てて、真っ暗な視界の中吐きたくもない溜息が漏れる。そんな俺の様子を近くで見つめていたであろうナマエの長い指がそっと俺の額に触れた。そのまま何度か優しく頭を撫でられて、目元に当てていた腕を元の位置に戻した。そのまま無言でナマエに視線を向けると、眉を下げて困ったように笑うナマエが俺を見つめていた。

「ごめんね、ロー。心配して迎えに来てくれたんだよね」

「……あぁ?心配なんざ一つもしてねぇよ」

「またぁー、相変わらず素直じゃないね」

「うるせぇな。たかが同窓会に浮かれてんじゃねぇよバカ」

「うん、でもどうしても行きたかったの。皆んなにローの自慢したくて」

「…………あ?」

今日ね、皆んなに報告したの。私今めっちゃくちゃ幸せなんだよって!

そう言って、ニコニコと満足げに笑みを溢すナマエに驚いて何度か瞬きを繰り返した。どうやら話を纏めると、自分は今最強にリア充だと、ただそれを自慢したくて今回同窓会に参加したらしい。勿論久々に再会した古い友人達にも逢いたかったのも本心らしいが、メインは俺との充実した日々を長々と語りたかったのだとナマエは俺に柔らかく微笑んだ。

「嘘くせぇな…ただの後付けだろそんなもん」

「もー嘘じゃないってば!私、今本当にローと一緒に居れて幸せな、…!」

最後まで言い終わる前に、ぐいっとナマエの後頭部を片手で引き寄せて勢いよく唇を塞いだ。歯列をなぞり、さっさと口を開けと言わんばかりに半ば強引に口内に舌を捻じ込む。「んっ、」と甘い声を漏らしたナマエの腰に手を添えて、そのまま一気に抱き寄せては自分の膝の上に向かい合わせに座らせた。一度離してやった唇を再び勢いよく塞いでは酸素なんて吸い込ませる余裕もないぐらいに深く舌を絡ませる。クチュクチュと卑猥な水音を立ててキスを繰り返す傍らに、スカートの隙間から手を滑らせて太ももを撫でてやれば、それに反応したナマエの身体がピクっ!と小さく揺れた。

「………自慢した割には、あの男には何一つ響いてなかったな」

「はぁっ、…ちょ、ロー!息、苦しっ、」

「黙れ、お前が悪い」

最早弁解の余地もないと言わんばかりに、そこにナマエを押し倒して首筋に顔を埋めた。チュウ、とわざと音を立てて跡を残す俺の行動を遮るように「やっ、」と無駄な抵抗を示すナマエの頬をそっと優しく撫でてやる。

「おい、」

「……えっ?」

「さっさと手出せ」

「て、手?はぁ、何で」

意味不明だと横に首を傾げたナマエの左手を奪い、デニムのポケットに忍ばせていたそれを薬指に嵌めてやると、予想通りナマエの動きはピタリと止まった。瞬きさえも忘れて、自分の薬指を凝視しているナマエの表情にようやく俺の満足度が満たされていく。

「俺の女は放っておくとフラフラと何処かに散歩しやがるからな。だから俺はさっさとお前を自分の物にすると決めた」

「ろ、ロー…。こ、これって…!」

「ナマエ、結婚するぞ」

「………っ、」

「おい、返事は」

正直返事なんざ聞くまでもねぇが、一応2人の事なので人として返事を待つ事とした。上から見下ろす形でソファーに押し倒している俺の首元に下からナマエの細い腕がそっと巻きついてくる。嗚咽を漏らしながら泣き崩れているナマエの背中に腕を回し、耳元に唇を寄せて「好きだ」と甘い声で囁いてやれば、ナマエの泣き声はより一層大きくなった。

「も、勿論…、オッケーです…っ、」

「だろうな…」

「わ、私もっ…好き。ローのこと…!」

「………あぁ、知ってる」

そこまで口にして、再びナマエの唇を塞いでは中断していた行為を再開させた。だが途中でここでは何だと思い直してベッドまでナマエを腕に抱え、2人して倒れ込むように寝室のベッドに身を沈めた。本能に従って、獣のように求め合う俺達を見守るように遠くでゆらゆらと月が浮かんでいる。ナマエにキスと愛撫を繰り返すその狭間で、一瞬窓から見える月にぼんやりと視線を向けていた俺に、ナマエが下から腕を伸ばしてきた。それに応えるように細い腕を掴まえて、チュ、と小さなリップ音を立てては唇を寄せる。何から何まで可愛くて仕方がないナマエに心の底から柔らかな笑みが溢れた。そして同時に思う。ナマエ、お前は一生この俺が守っていく、と。そんな、ありきたりな台詞を。

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