この前高校時代からの悪友と共に久々に夜遊びしたあの夜は最悪なXデーだった。買い換えたばかりの携帯を酔った勢いで道端に転げ落とし、その直後やって来た通行人に踏んづけられる始末。何とかアルコールが回った頭で手探りで携帯を奪還し、壊れていないかすぐさまその場で確認をすれば、不幸中の幸いか辛うじて我がiPhoneは一命を取り留めた。が、何と携帯カバーの収納スペースに忍ばせていたICカードは絶命した。何て世知辛い世の中なんだろう。そんな忌々しい回想をしつつ、今日も私は泣く泣く新しく買い換えたSuicaを駅の改札にてかざす。

「マジだって!俺最初から可愛いと思ってたもん!」

帰宅ラッシュの山手線に揺られる事約5分。あぁ、東京は明日晴れかとぼんやり車内の小さい電光画面を眺めていた時の事だ。

「えぇ?それ本当ー?」

「ほんとほんと!だからあとちょっとだけで良いからさ、今から俺と二人で2次会行こうよ!」

下心見え見えの今時風メンズが、気分よく大声で隣に居る可愛らしい女の子に猛烈アピールをかましている。げぇ、そんな古い誘い方あるかよ。現代っぽいのはそのやたら刈り上げた頭だけか。言っとくけどあんたそんな髪型しても絶対EXILEにはなれないから。

「もうしょうがないなぁ…」

どうせ男が断られて終わりだろう。そう考えていた私の予想を遥か何倍も飛び越えて、まさかの女の子側からのOK返答。え、まじで!?いいのそんな軽い感じで!私だったらそんなダサい誘い方する男絶対嫌なんだけど!とか何とかかんとか驚いてる内にその男女2人はさっさと次の駅で途中下車してしまった。……最近の若者は一体どうなっているのだろうか。性関係が乱れに乱れまくっているではないか。でもかと言って昔の自分を掘り返すとあんまり人の事は言えないな。今回の所は胸の中に閉まっておく事にしてそっと静かに瞼を閉じた。




「あー…つっかれた」

それはそうと、社会人とは何故こんなにも毎日毎日クタクタになるまで働くんだろう。幾らお金と生活の為とはいえ、その犠牲と精神の粗削りだけは未だに理解しかねる。そして眠い。あぁ、今日はゆっくりお風呂に浸かる元気もないわ。さっさとシャワーだけ浴びて寝よう。

「とりあえず、明日のプレゼン資料は朝一で纏めよ……って、うわ!ごめんなさい!」

最寄りの駅から歩いて15分。やっとの思いで辿り着いた我が自慢の高層タワーマンションのエレベーター前にて、まるで蛙でも踏みつけたかのような雄叫びが響き渡る。つい先程この乱れに乱れまくった最近の若者達の性事情に驚いた所だ。まさかその続きを見るかのようなとんでもない破廉恥な光景を目の当たりにするとは一体どういう事だろうか。どうやらあの夜のXデーは未だに継続続行中らしい。

「………ねぇ、ロー。着いたみたい」

「あ?」

まるで獣でも見るような鋭い眼光の男とばっちりと目が合う。……おぉ凄いイケメン。そんな非常にどうでも良い感想を胸に抱きつつ、自然と視線が向くのはエレベーター内の二人の体勢だった。なんでこの人達こんな短期間の間にハリウッド映画みたいな濃厚熱烈チューをかましてたんだろう。しかもわざわざ壁ドン付き。相手の女なんて嬉しそうに男の首にちゃっかり腕なんて廻してるし、さすがイケメンはやる事違うな。

「チっ…行くぞ」

「え、ちょっと待ってよ!」

すいませんでした。そうペコペコとこちらに二度頭を下げてイケメンの後を追っていった女の後姿を冷めた目付きでじっと見つめる。

「………あんな俺様彼氏とか絶対嫌だわ」

ようやく人気がなくなったエレベータに乗り込みつつも無意識に呟いた言葉は私の心からの本音だった。でもまぁある意味良い情報を得た。どこの階に住んでるのか、はたまたどちらが通い詰めてるのかは不明だがよく覚えておこう。このマンションにはとんでないイケメンで、とんでもない俺様メンズが出入りしていると。

「はいただいま〜そしてお帰り私」

いい歳こいてこの独り言もどうなのだろうとか思いつつ、一人暮らしも長い為どうにも癖は直らないらしい。適当にパンプスを脱いで長い廊下をフラフラと歩き、そしてソファーにて力尽きた。……あぁ、シャワー浴びなきゃ。でもその前にメイクも落とさないと。女ってなんでこんなに面倒なんだろう。誰か一発で落とせる化粧マスクとか開発してくれ。

「…………ねむ」

力尽きた筈の残り僅か1%の労力を奮い立たせて、なんとか洗面所へと辿り着く。水道管を伝って流れ出てきたお湯の温度を調節しながら、私の頭の中は明日の会議の事で一杯だ。いかんいかん、さっさとシャワーでも浴びて気持ちを切り替えよう。

結局その日の夜は、良い夢を見れる事を願っていそいそと床についた。でも疲れすぎていたせいか、良い夢どころか爆睡しすぎて次の日の朝遅刻ギリギリに出社するハメとなった。

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