「…」

亜里沙の機嫌の悪さは過去最高だった。理由の一つは、朝。登校した亜里沙の目に映ったのは、肩を並べて歩く跡部とジロー、そしてなまえの姿。
(…景吾!?)

なまえを責めるような視線を向けているわけでも、咎めているわけでもないのは見て分かる。ジローも嬉しそうににこにこと微笑んでいた。異色の三人から距離を空けて様子を伺っている氷帝生の中で、亜里沙は信じられないと立ち尽くしていた。


「どういうこと…?」
ジローは別として、景吾は私の味方だったはず。

――いえ、何かの間違いよ。

首を振って雑念を払った亜里沙は急いで校舎に入り、教室に向かった。
ガラッ
戸を開けて中を見回すとなまえの姿はまだない。追い越してきたわけではないから、おそらくテニスコートの鍵を返しに行ったのだろう。

「おはよう亜里沙」
「亜里沙おはよっ」
「よう鳥居」
「亜里沙、昨日休んでたけど大丈夫?」

ちょろいちょろい

それぞれに笑顔で挨拶を返しながら席に向かう途中、亜里沙の目に彼が留まった。

「…!!」

ベルフェゴール…。
亜里沙の王子様。

金色の髪に輝くティアラ、スマートな体系に長い手足。モデルのような完璧な姿に、亜里沙はうっとりと息を吐いた。
(絶対、亜里沙のものにするっ)

「おはよぉ!あなた、ベルフェゴール君でしょぉ?私は亜里沙、よろしくね」

にっこり笑って見せる。
するとベル君の動きが一瞬止まった。

ほーら、もう落ちた。

男なんてみーんな簡単!
そこからはトントンと話が進み、ベル君も亜里沙と友達になりたいと言ってくれた。周りの家畜達からの煽りもあったから、私の評価はきっとベル君の中でも上がってるはず。それなのに。

「ベル」

また



「寝癖、直してこなかったんですね」

亜里沙が触りたいと思っていたベル君の髪にいとも簡単に触れ、それを許すように笑ったベル君。激しい怒りの炎が亜里沙の中で色を濃くする。
ああ、
嗚呼、

許さない。

亜里沙のものに勝手に触るなんて許さない…!


嫉妬嫉妬嫉妬
(ぐちゃぐちゃにしてやる)

top
×