「………はい、カーット」携帯を再び開き、通話中の画面に耳をあてる。耳元でクスクスと可笑しそうな笑いがなる。
「あらん、もういいの?」
「十分!グラツィエ、ルッスママン」
「結構楽しかったわ」
「我ながら名演技だった」
「こっちでも見てたわよ!あなた腕あげたわね」
「いやん、照れるよルッス」

あれからルッスはヴァリアーの映像処理部隊の部屋に行き、こちらの映像を見つつ架空のお母さんとして対応してくれていたわけだ。
亜里沙には私のいない間になんたら…と言われていたけど、知った事か。向日岳人は現状を考えあぐねている事だろう。

(悩めばいいんだ)

悩んで出した結論が正しい物であればよし。間違っていてもよし。
だって私は、私達は、あんた達を裏社会の睥睨から守るために。裏表の境界線をはっきりさせるために来たんだもん。

――アルギットファミリーの脅威から氷帝学園を守る。
生徒達がどんな選択をしようが関係ない。それが9代目からヴァリアーに下ろされた任務なのだから。

「…」

ただ、不快ではある。
任務に私情を挟む気はこれっぽっちもないが、ただ、面白くない。あんな可愛くないガキ共を救って何の利があるってんだ。むしろ滅んだ方がジャッポーネのためじゃね?…前にも言ったけど。
もっとこう…護り甲斐のある…ほら、京子ちゃんみたいな子だったらよかったのに。

『なまえ、顔!』
「アン?」
『まるで般若よ?』
「失敬なこというな」
『そんな顔ボスに見られていいのかしらん?』
「!!」
『女優はいつでもカメラを意識してなきゃダメよ!さ、笑って笑って』
「…うへぇへぁ」
『怖いわよ!』

悲鳴を上げるルッスーリア。
なんだってんだ。
しまいには、女優にはまだまだ程遠いわね、なんて呟かれた。

私はころんと仰向けになって空を見上げた。


「…ルッス」
『何かしら?』
「私……ヴァリアーの機関の中で動いてた時は、あんまり分かってなかったみたい」

分かっていたつもりだった。
ボンゴレからも他のファミリーから煙たがられる組織であるヴァリアーは、組織の中でしか気の休まる所がない。
ここの境遇は、少しそれに似ている。


ザンザスはヴァリアーのトップで、風当たりが強い中ふらつかずに立ってくれていたのだ。私達が揺らがないで「正しい悪事」を全うできるのはザンザスのおかげなのだ。
のけ者にされることが結構つらいのを、私はここに来るまで知らなかった。
ザンザスは強い。

強いけど
きっとすごく疲れてるはずなんだ。


「ザンザスは私が護るよ」

ここでも
もどってからも


私が決意を込めて口にすると、間を置いて、ルッスーリアが電話口にくすりと笑った。
『…明日、あなた宛てにケーキを送るわ。楽しみにしてて』
「!!ルッスだいすき!」
『あらあら。ボスに殺されちゃうわ!』

それから少し会話を楽しんで電話を切った。
元気のパラメーターが回復したのは、言うまでもない。
YELL

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