「ベル、ちょっと運動しようよ」
「は?」
「鬼ごっこ」

呆気にとられているベルの肩をポンとたたいて、私は走り出した。
「王子に勝負しかけるとか、良い度胸じゃん」
と、ベルもすぐに乗り気になってくれて、二人で人気の無い校舎を走り回る。
階段を10段飛ばしで飛び下りたり、ベランダから階下のベランダに飛び移ったり、ナイフを避けたり放ったりしていたら、二人ともあっと言う間に汗だくになった。


「ここまでおいでー!」
「しししっ!なめんなよっと!」
「そんなの当たらな、うおわ」
「バッ、お前そこでコケんな!!どわっ!」

廊下でつまずいた私の足に引っかかってベルも宙に舞う。盛大に転んだ私達の戦意は一気に喪失したと言っていい。それでも私の胸につまった充実感は言葉では言い表せそうにない。

「楽しいね、ベル!」
「…ハァ」
「あれ?そうでもない?」
「しししっ、んなわけねーじゃん。お前相変わらず速ぇし」
「…ありがと、ベル」
「は?何言ってんの」

ベルだけじゃない、スクアーロもザンザスも私の体がボロボロなのに気付いてた。
そりゃ足には自信あるけど、今のこの状態で私が、ベルに一度も追いつかれないはずないもん。――手加減してくれたに決まってる。

「あーあ、鬼ごっこ疲れたー、もう動けない」
「王子もギブ。でもこの床で寝んのだけは絶対ヤダ」
「えー?気持ちいいよー」
「王子のベットのが気持ちいし」
「そ、そりゃね」
「こんなちょこざいな任務さっさと終わらして、帰って寝る。これケッテーな」
「…うん」


頷いた私を、ベルは黙って見据えた。

「なまえ、ちょっとこっち来てみ」
「ん」
言われた通り近寄ると、ワイシャツの袖をするりと上げたベル。色の変わった私の肌を見て僅かに眉をひそめた。(ような気がした)

「よくある事じゃん」
「ねーよ。受け身も取んねーで殴られ蹴られしないかぎりな」
「…」
「ボス、怒んぜ」
「…かもね。でも、設定上超人的なことして見せるわけにもいかないし」
「設定なんて王子関係ないし。それにオマエ、すでに2階から飛び降りて無傷じゃん」
「そ、それはほら…びっくりしちゃってつい」

でも皆ザンザス達の事件の方が興味の対象だったらしく、私の事はそこまで重要視されなかったから大丈夫だ。たぶん。

「亜里沙の尻尾掴みきるまでは、このまま無抵抗でいるしかない」
「王子だったら耐えらんねーわ」
「私だって痛いのはいやだよ」
「それもだけど、あんな凡人共に殴られんの我慢してるなんて、お前そんな忍耐強かったっけ?」
「失礼な」
「ししっ!王子だったらアルギットもここの奴らも全員殺ってんね。つーかそれが俺らの仕事じゃん?」
「…確かにね」

そこまで疑問には思わなかったけど、殺し専門の部隊を一般の場に差し向けた9代目の真意はよく分からない。

「他の所にやらせろよって話だよね」
「そーそー、俺らこういうの向かねんだよな。短気すぎて」
「ベルとザンザスは特にね」
「ししし!スクアーロもだろ!」
「ほんと、私とルッスーリアの乙女組は温和だよね」
「あいつオカマだから」
廊下で雑談

「そういや俺、明日からなまえとクラス一緒な」
「まじか!」

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