「お前が作ったもんなんて飲めるかよ!」
「僕もです。見損ないましたよ、なまえ先輩」

差し出したドリンクは向日や鳳を始めとする亜里沙援護メンバーにぶちまけられたので、奴らにはもう作るもんかと心で誓う。

「喉が渇いた。寄こせ」
「俺もだC−!」
「うす…」
「…どうも」

跡部、ジロー、樺地、日吉は飲んでくれたので私はそこまでやさぐれずに済んだ。ジロー以外の3人の心情は定かではないが、それはおいおい確かめていこう。
重たいジョグを両手で持ってコートをうつる。


「ドリンクいる人いますか」
あまり期待せずにそう言うと、わっと歓声が上がりまたも私は人波にもまれる事となった。昨日のような感謝の嵐を一身に受けて、ふと思う。彼らは私達のもめ事を知っているのだろうか。


「美味いッス、苗字先輩」
「こんなん捨てるなんて宍戸さん達損してるぜ!」
「うめー!」
「苗字先輩」
「俺達みんな信じてますから!」
「…え?」

「鳥居先輩殴ったとか、先輩はきっとンなみみっちーことしねぇよ」
「なんて…昨日会ったばっかな俺達が言うのも何スけど」

ぬるいよ、亜里沙。

「…――嬉しいです。信じてくれて」


彼ら皆自分の手中におさめとけばよかったのに。そしたら私はこんな所で救われなかった。きっと倍以上傷付いた。その毒牙に浸さなかったこと後悔してるだろうけど、私は感謝しそうだよ。
――こんないい子達、汚さないでおいてくれてありがとう。



***


「アンタ、何のつもり!?」
「?」
「呼んでって言ったじゃない。勝手にドリンク配り終えて、亜里沙がサボってると思われたらどうすんのよ!」

実際サボってたし。自分の手柄にされちゃ面白くないもの。だから亜里沙がトイレに言ってる間に決行させていただいた。怒り狂う亜里沙。もうすぐ部活終了の時間だからレギュラー陣がここへ戻ってくるだろう。ほら、足音が聞こえてきた。

「…その態度、気に入らない」


亜里沙は声をワントーン低くしたかと思えば、突然私に飛びかかってきた。流石にびっくりした。
よろけかかった私を引っ張り込むようにして倒れ込む亜里沙。
はたから見れば、私が亜里沙に殴りかかっているように見えるはずだ。ああ、タイミング図られたなこりゃ。と気付いた時には後の祭り。部室に入ってきたレギュラー陣は私達を見て顔を驚きに染めた。


「た、すけて、皆!!なまえちゃんが急に殴りかかってきて」
「大丈夫か!?亜里沙っ」
「何やってんだよテメェ!」
乱暴に押しのけられた私は、腰をしたたかに打ち付けたが今はそれどころではなかった。ジローはさっき草原に睡眠を取りに向かうのを目撃したからいないし、跡部は…

「…現行犯じゃねぇか、苗字」
「やってません…」
「もう信じられねーよ。…お前、狂ってるぜ」

どこか気の抜けた跡部の声。まるでそれが合図であるように、次々に拳が降りかかってきた。襲いくる痛みに耐える寸前、鳳に支えられながら不敵に笑む亜里沙が視界に入る。

確かに危険と血にまみれた世界だけれどもごく稀に
こちらよりも綺麗だと思う時があるのです。

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