朝練を終えて教室に戻った二人が目にしたのは、早くに登校したクラスメイト達に囲まれた亜里沙の姿。
「亜里沙…?」
「おま、どうしたんだそれ!」

亜里沙の右頬を覆う白い湿布が酷く痛々しい。誰もが彼女を心配し、無理やり作った笑顔を顔に張り付けて泣きそうな彼女を守りたいと思った。
「亜里沙、俺達に話してくれねぇか?」
「…りょ…お」
「ああ。何かあったんだろ…?昨日のやつに関係してんのか…?」
「が、くと…ふぇ」
暫くふるふると首を振っていた亜里沙だったが、俺達が食い下がって聞いていると、ようやく、嗚咽交じりの声で真相を話してくれた。


「う、そだろ…」
「なまえ…が」


氷帝テニス部に近付くために亜里沙に近付いたなまえ。屋上で脅された亜里沙。上履きの事件はなまえの自作自演。俺達に好感を持たせるための手段に、亜里沙を使った。そして「駒」と成り下がる事を拒んだ亜里沙に、この仕打ち…―――


「なんて…下種野郎だよ」
「あんなのに騙されてたなんて…!激ダサだぜ」
「急いで跡部や忍足にこの事知らせねぇと」
「…待って!岳人、亮」
亜里沙がか細い声で二人を呼び止める。静まり返った教室に、亜里沙の声は不自然に響いた。


「なまえちゃんに、言わ、れたの」
「…」
「誰かに言ったら…殺すって」

ざわめきたつ教室。宍戸は腹の底から湧き上がってくる憎悪にまかせて、傍にあった椅子を蹴り飛ばした。

「オイお前ら!!…この事、氷帝全校生徒に広めろ。皆が知ってりゃ、あいつも身動きとれねぇんだ!」

一瞬慄いていたクラスメイト達は宍戸の言い放つ言葉に同意の声を上げ、次々に手元の携帯に文字を打ち込み始めた。
宍戸は身をかがませて、亜里沙の頭をそっと撫でる。


「安心しろ。俺達は皆、お前の味方だ」

こうして始まった


「良かったC−」
「?」
「はあ、俺、分かってたんだけど緊張してたっぽい。…はああ」
「…なんだか、よくわからないけど」
「!」
「ありがとうね…。ジロー」


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