「そうなの…。私が鳥居さんを殴ったことに」
「だから跡部たちカンカンだCー」
「…そう」
「で、でも!平気だと思う、だってただの噂だC−!亜里沙ちゃんが否定してくれたらすぐ消えるよ…!ね?」
「そうだね」

亜里沙が流した噂だ。否定してくれる期待は限りなく0だ。
それでも懸命に私を慰めようとしてくれているジローに迷惑をかけないように、私は頷いた。何も心配していない。大丈夫。そんな気持ちが伝わるように凛と。

「そろそろ教室に行かなきゃ」
「…でも」
「大丈夫、だよ。何かあったらすぐに逃げる」
「…」
「ジローちゃん」
「…分かったC−」


もうすぐ1時間目開始のチャイムが鳴る。立ち上がった私達は、校舎へと足を踏み出した。

下駄箱で靴を履きかえて、私なんかよりずっと緊張してるらしいジローの背中をポンと叩く。
驚いたように立ち止ったジローに手を振る。
(ここで、バイバイ)
あんまり一緒にいるところを見られると、ジローもその対象に入りそうだったからだ。…任務対象者と仲よくしちゃいけないのに。私ってば本当にダメダメだ。

ザンザスには「お前は暗殺にむかねぇ」と何度も言われているし、自覚もしているから別にいいのだけど。そんな暗殺に不向きな私がヴァリアーを続けている理由は一つ。
――皆と一緒にいたいから。

「…っし」


小さく気合を入れて、教室の引き戸を開ける。突き刺さるような冷たい視線を感じるより先に、私にはすることがあった。

威圧せよ、少女
生半可な目で見ないでちょーだい

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